「慎重とは急ぐことなり」未知の領域への心構え
西城洋志(ヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーCEO)

2017/1/13 6:30
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シリコンバレーに赴任してから、あることに気がついた。それは「現状の事業における危機感」に加え「大きな変革点における機会」ということだ。前者は変化を受動的にとらえるのに対し、後者は能動的にとらえることである。

ヤマハ発動機で表面実装技術やロボット事業のソフトウエア開発などに従事。2015年7月にヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーを設立、ベンチャー投資を含めた新事業開発に取り組む。

ヤマハ発動機で表面実装技術やロボット事業のソフトウエア開発などに従事。2015年7月にヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーを設立、ベンチャー投資を含めた新事業開発に取り組む。

所有(製品販売)から使用(サービス販売)へのニーズの変化は、製品販売というビジネスモデルでは脅威になる。だが、高品質・高信頼性・長寿命という自社製品の長所を生かせば、サービスビジネス参入の好機にできる。

ヤマハ発動機は「不確実で非連続的な領域」への挑戦としてシリコンバレーに活動拠点をつくり、「シーズベースの共創型アプローチ」と「ニーズベース・ウォンツベースのベンチャー出資+戦略的パートナーシップ」を行うことにした。その実行部隊としてヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーが2015年7月に設立された。

この会社では「スリー・ホライズンズ・オブ・イノベーション」のモデルを用いて新事業開発活動を整理している。このモデルは、米国の大学で起業をテーマにした講義をしているスティーブ・ブランク氏が自身のブログで引用・解説している。「3つの水平線(ホライズン)」とは何か。1つめの水平線(H1)は現在の事業、2つめ(H2)は今の事業と関連性のある事業(連続領域)、3つめ(H3)が未知で不確実な事業領域(非連続領域)だ。

自社の経営資源を生かし、共創型、もしくはリーンスタートアップ(最低限のコストと短サイクルで仮説の検証を繰り返してビジネスを開発する手法)で事業を開発することをH2のための事業開発と呼ぶ。知見が足りない領域において、ベンチャー企業に出資したり、戦略的に提携したりするのがH3への事業開発だ。

重要なのは、H3のための活動が結果としてH2のための活動に寄与することだ。H1からH2をみると、近視眼的になりやすく、補完目的に偏りがちになる。H2にするつもりだったのが、「H1.1程度」にとどまってしまうことがある。だが、H3への活動も行うと、未知のH3からみたH2を考えられるようになり、中長期視点や代替的事業(破壊的創造)、革新的技術への挑戦という要素をH2に盛り込める。こうした考え方に基づいて、これまでに4件のH2型の事業開発プロジェクトに着手し、4件のH3型のベンチャー企業への出資をした。

このような活動はヤマハ発動機にとって、初めてだった。それでもできたのは、支援をしてくれたシリコンバレーのコミュニティーや、「新しいヤマハを創る」というビジョンに共感してくれたスタッフのおかげだ。シリコンバレーでは「人脈が大事」「コミュニティーへの貢献が大事」と言われる。意見や情報を交換することこそが、不確実で未知な領域における新しい価値の創造において必要不可欠だからだ。

ヤマハ発動機の創業者である故川上源一氏は「慎重とは急ぐことなり」という言葉を残している。意訳すると「新しい価値を創造するとき、人々は不確実性に不安を覚え、慎重になる。不安を払拭するための数字の獲得や検証に躍起になる。だが、世の中は変化しており、数字にできるようなことは価値創出においては役に立たない。人が好奇心と情熱を持って行動し、その結果から学び、次の行動を起こすことでしか、新しい価値の創造などはできない。慎重になりたいのであれば、急いで行動せよ」となる。これこそが我々が念頭に置くべき考えである。

[日経産業新聞2017年1月10日付]

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