企業は長期の視点でROE向上目指せ
企業が資本をどれほど効率的に使っているかを示す「自己資本利益率(ROE)」という財務指標が、日本で定着してきた。中期経営計画の中で「ROE10%以上」といった目標を掲げる上場企業も、増えつつある。
リスクマネーの提供者である株主に対し、企業が資本の効率利用を打ち出すのは当然のことだ。この動きを加速させ、確かなものとしていく必要がある。
ROEは、アベノミクス(安倍首相の経済政策)の一つである株主重視の企業統治(コーポレートガバナンス)が徹底されているかどうかを示す指標でもある。現在、日本企業のROEはおよそ8%と米企業の半分程度だ。満足すべき水準ではない。
ただ、手っ取り早く目先の数値を改善しようとすると、企業活動の萎縮を招く恐れもある。低採算の事業から撤退する一方で有望事業に経営資源を投じるなど、構造改革を進めることによって長期的にROEを高めていくのが、本来の姿である。
まず欠かせないのは経営者と株主との対話だ。株主がどの程度の資本効率を求めているかを知る必要があるからだ。企業に求められる最低限の資本効率を資本コストといい、ROEはこの水準を上回らなければならない。
日本企業の平均資本コストは約8%とされるが、企業間の差は大きい。情報開示の良しあしなどによっても変わる。自社の資本コストをきちんと把握しないままROE目標をかかげても、株式市場の評価は高まらない。
長い目でみてROEを高めるには、成果が出るまで時間がかかる研究開発や設備投資も積極的にすすめなくてはならない。短期的な利益を求めて投資や雇用、賃金を犠牲にすれば、収益力はいずれ衰えてしまう。
企業が株主に伝えるべき経営情報は多面的になってきた。業績や財務に関する情報だけでなく環境対策や働き方改革、性的少数者への配慮なども問われる時代だ。経営者がROEに象徴される財務指標だけを重視すると、情報開示の間口が狭くなり株主の信頼も失いかねない。
ROEの考え方が広がったことをきっかけに、総じて日本企業は株主との意思疎通に積極的になった。多様な株主の求めに耳をよく傾けながら、資本を有効に使う経営を徹底すべきだ。