2019年1月17日(木)

デマまん延の米大統領選、モラルなき広告主が助長
藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

2016/12/15 6:30
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「アメリカには良くないかも知らんが、ウチには大助かりだ」

今春、米大統領選のトランプ旋風に大歓迎を表明したのは、米3大ネットワークの一角、CBSのレスリー・ムーンベス最高経営責任者(CEO)だった。

口汚く競争相手をけなすディベート、次々と飛び出す醜聞や陰謀説。選挙がデッドヒートの様相を見せるにつれ、有権者はテレビをはじめとするメディアにしがみつき、両陣営からのキャンペーン広告がこれを潤す。大手メディアが恥じらいもなくこれを喜んだ。

事実、大統領選の開票状況を伝える放送大手の視聴者は、ピーク時に8000万人、平均でも約7000万人と、前回の2012年の6700万人を上回った。ケーブルを含んだ大手テレビ局が軒並み低迷を取り沙汰される中、トランプ旋風が神風を吹かせた格好だ。

既存の放送陣営が面目を保った大統領選報道だが、実は、NBCニュース、PBS、CNN、CBSなど放送大手、ブルームバーグ、ニューヨーク・タイムズなどに加え、フェイスブックを筆頭とするツイッターやバズフィードらインターネット勢力の多くが、ネット経由の新たな放送ともいえる「ライブストリーミング」に注力した。

その結果はめざましく、CNNだけでも世界中に開票速報を伝えるストリーミングで、常時3000万人のアクセスを得るなど、軒並み「史上最大」を記録した。大統領選は、既存メディアの実力を再確認させる一方で、ネット勢力による動画中継が大躍進を見せたイベントでもあったわけだ。

ところで、新旧メディアが大活躍した大統領選は、メディアが大規模な政治宣伝の場になるだけでなく、いともたやすくカネもうけの場ともなることも見せつけた。大統領選をめぐり政治的主張の強いメディアが次々と出現し、過激な主張からデマニュースまでを日々報じ続けた。

政治的な反発を恐れてそれらを積極的に排除しなかった交流サイト(SNS)最大手のフェイスブックは、デマ拡散の温床となったと指摘される。悪いことに、デマニュースは、デマを検証し否定する記事よりも数多く読まれることも判明した。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

政治色の強いニュースがむさぼるように読まれるのに目をつけ、東欧など海外の若者らがデマメディアを次々に作っては、アクセスした人々に広告を表示して荒稼ぎしたことも判明している。グーグルをはじめとする広告配信事業者が、これらに広告を配信して詐欺行為に間接的に加担したと批判される事態ともなった。

過激なニュースやデマが、選挙戦当事者の政治宣伝戦を超えて、カネもうけの仕組みにおちいったのは「デマであろうと広告が読まれればよし」とするモラルを欠く広告主が存在するからでもある。ここにメディア、テクノロジー勢力、そして広告業界を取り巻く史上最悪の構図が浮かび上がってくる。

最近になり、グーグルは広告配信の基準を厳格化する動きを見せた。批判を重く見た大手食料品メーカーのケロッグらが大統領選を主導したとされる極右メディアから広告を取り下げ、当のメディア側が不買運動で反発する事態も起きている。米大統領選が浮き彫りにしたメディアをめぐる混乱は、その第2幕が開こうとしている。

[日経MJ2016年12月11日付]

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