春秋

2016/12/8 7:40
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「暗闇の彼方(かなた)に光る一点を/今駅舎(えき)の灯と信じつつ行く」。高倉健さん主演の映画「駅 STATION」にこんな歌が出てくる。健さん演じる刑事に、ある死刑囚から届く手紙。そこに記された辞世の一首だが、鉄道と駅を人生に重ねたこの名作のテーマでもあろう。

▼物語の時代設定はおもに1979年だから国鉄はすでに赤字にあえいでいた。それでも作品は、雪と氷に閉ざされた北海道の風景のなかにディーゼル車の疾走を頼もしく描いている。そのJR留萌線の留萌―増毛間16キロ余が先日ついに廃線となって、増毛駅も役割を終えた。残された区間の先行きもきわめて多難だという。

▼鉄道をめぐるニュースにはこうした話が少なくないが、別世界もある。JR東日本の「トランスイート四季(しき)島(しま)」と西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」――いずれ劣らぬ豪華寝台列車が来年から運行を始めるという。料金は1人当たり最低30万円前後。この価格でも豊かなシニア層の需要は大いに期待できるそうだ。

▼鉄道の魅力が再発見されつつあるからこその設定だろう。とはいえ地域の足は次々と消え、かたや日常とは無縁の豪華列車が行く光景に戸惑いを覚えぬでもない。せめて、もう少し普通の寝台車の復活など望めないものか。暗闇の彼方に光る一点をめざし、鉄路を黙々と走ったブルートレインの情趣を思い出すのみである。

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