日本企業が米スタートアップに抱く5つの誤解 - 日本経済新聞
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日本企業が米スタートアップに抱く5つの誤解

ジョアナ・ドレイク・アール(コア・ベンチャーズ・グループ ジェネラルパートナー)

シリコンバレーのスタートアップ(ベンチャー企業)に対して、日本企業は5つの誤解をしているようだ。今回はそれについて述べたい。

まず、シリコンバレーのアクセラレータープログラム(ベンチャー支援の仕組み)は、優れたスタートアップの実績がある人にとって、最適な場であるという誤解だ。

シリコンバレーのアクセラレータープログラムは、シリコンバレーのベンチャーでの経験が乏しい人たちを対象にしている。現地でのネットワークがなく、資金調達や人材の供給、企業の創設一般に支援が必要な人たちだ。シリコンバレーの外にいた人が起業しようとしたときに役に立つプログラムなのだ。

一方、東京には実績がある優秀な起業家を対象にしたアクセラレータープログラムがある。その理由は、シリコンバレーのような50年近くにおよぶベンチャー支援のインフラサービスの歴史を東京が持っていない点にある。

次は大企業であれば質の高いディールフロー(資金の投資と回収)を実現する手法を調査研究できるという誤解だ。

シリコンバレーのスタートアップへのディールフローを巡る競争は非常に激しい。スタートアップに関する情報が不完全であることもそれに拍車をかけている。投資家や買収企業、弁護士や銀行などは秘密裏に活動している。シリコンバレー内部の人的資本ネットワークがなければ、有用な情報は得られない。大企業であっても、シリコンバレーの外部から事業を開発しようとする試みは不発に終わる可能性が高い。

3つめの誤解はシリコンバレーを短期間でも訪れれば、現地のスタートアップを理解し、正しく評価できるというものだ。

シリコンバレーの経済のエコシステム(生態系)を理解したり、スタートアップとの信頼関係を構築したりするには、3年から5年を要する。日本企業の代表者がシリコンバレーに赴いて18カ月(1年半)で離任すると、代表者が現地の事情がわからないままになってしまい、その企業のブランドには傷がつくだろう。

シリコンバレーでネットワークを構築するため、最高の人材に裁量と経営資源を与え、最低でも3年間は配置する必要がある。シリコンバレーで大きな成功を収めている日本企業では、代表者が実力のある取締役であり、長期滞在していたり、定期的に訪れていたりしている。

信頼関係があればスタートアップへの投資や提携(ディール)を勝ち取れるという誤解もあるようだ。

起業家や一流のベンチャーキャピタリストとの信頼関係を有することは有効だが、日本とは異なり、「身内に対する優遇」を受ける可能性は低い。スタートアップの経営陣は自社にとって最良の取引条件を常に保持する信認義務に拘束されているからだ。

そして5つめの誤解は、スタートアップは国際的な企業やそのブランドとのパイプを構築することに魅力を感じているというものだ。

スタートアップは一流のベンチャーキャピタルによる関与を好む。魅力のある事業を行っていることや相当の収益を生む可能性を有していることの証左になるからだ。半面、スタートアップは、国際的な企業が取引を行う際に求めてくる複雑な契約に対する経験や耐性に乏しい。

次回はシリコンバレーのスタートアップが日本企業に対して持っている5つの誤解を紹介する。

[日経産業新聞2016年12月6日付]

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