2019年4月23日(火)

分断あおる政治に歯止めをかけよ(米国からの警鐘)

2016/11/25 3:30
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政治には権力闘争という側面がある。それゆえ、どんな手段を用いても勝てばよい。そう考える扇動家がしばしば現れる。自分を正当化するため、強引に敵を仕立て上げ、不安、恐怖、憎悪などによって人々を一方向に走らせる。

今回の米大統領選はその代表例だった。こうしたポピュリズム的な政治潮流に歯止めをかけるにはどうすればよいのか。いまこそ民主主義の真価が問われている。

軌道修正は本当か

トランプ次期米大統領は自身の勝因について「ソーシャルメディアが役立った」との見方を明らかにした。ツイッターのフォロワー数は約1500万人で、民主党のクリントン候補の約1100万人を大きく上回る。「私には数の力がある」と豪語する。

共和党大会で大統領候補に指名はされたが、ライアン下院議長ら党中枢と折り合いが悪く、組織的な選挙戦はあまりできなかった。不動産王と呼ばれているが、選挙資金は意外に使っていない。

やや極端にいえば、人口3億人の大国をひとりの言語力でねじ伏せたわけだ。この事実に躍り上がっている政治家が世界中にいることだろう。ロシアのプーチン大統領をはじめとする強権政治家の多くは、大衆を操ることで自らの権力基盤を築いてきた。

ただ、歴史を振り返ると、そうした扇動政治は必ずしも長続きしていない。中国の唐の政治書「貞観政要」に新たな体制をつくるよりも、できた体制を維持する方が難しいという話が出てくる。

敵と味方をはっきりさせる手法は既成政治を壊す段階では有効かもしれない。だが、権力を握ってからは、自らがつくり出した敵も統治しなくてはならない。分断が深いほど、混乱は自身に跳ね返ってくる。ニューヨークなどの大都市では反トランプ・デモが続く。

「すべての米国民の大統領になる。私を支持しなかった人にも手を差し伸べる」。当選が決まった直後、トランプ氏は勝利演説でこう語りかけた。政権移行チームの幹部は「選挙モードから統治モードに切り替わった」と説明する。確かに過激とされた選挙公約のうち、いくつかはすでに軌道修正の可能性をほのめかしている。

「地球温暖化はでっち上げ」として早期脱退を訴えていたパリ協定は「予断を持たず検討する」と語り、公約撤回に含みを残した。

1000万人を超えるともいわれる不法移民については、すべて追放すると主張していた。選挙後は「200万人か300万人程度いる犯罪歴がある者、ギャングのメンバー、麻薬密売人などを追放または投獄する」としかいっていない。米国とメキシコの国境に築く壁は「一部はフェンスになるだろう」とトーンダウンした。

だが、これではまだ不十分だ。トランプ氏は犯罪歴のない不法移民に恩赦を与えて定住を認めるかどうかには言及していない。不法移民の大半を占めるヒスパニックと呼ばれる人々は、自分たちはどうなるのかと不安にさいなまれる日々だ。多くはすでに子どもがいる。出生地主義に基づいて米国籍を持つ子どもと引き離して強制送還することなど現実には困難だ。

共通の土俵で議論を

移民による人工国家である米国は、民主主義と市場経済という普遍的な価値観を世界に伝道するという強い使命感を抱くことで、国際秩序を主導するとともに、国内のさまざまな対立の傷口が広がらないようにしてきた。

国力が低下したからといって、アメリカ・ファースト(米国第一主義)をよしとしてしまえば、次に来るのはホワイト・ファーストやクリスチャン・ファーストといったさらなる狭量の政治である。

「ひとつの米国」を訴えて当選したオバマ大統領が取り戻せなかった米国民の一体感を、分断をあおったトランプ氏が生み出せるのか。高いハードルであることは間違いないが、ほかに道はない。

大事なのは、話し合いのための共通の土俵をつくることだ。トランプ氏は過去の発言を平然と否定することが多かった。政策論争でも根拠なき楽観論を振りまいた。このままでは有権者は理性的な判断ができない。メディアが極論に走らず、事実の報道に努めることが重要になる。

ポピュリストによる分断の政治に歯止めをかけられるか。これは決して米国だけの問題ではない。

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