2019年4月25日(木)

国閉ざすより変化への対応支援を(米国からの警鐘)

2016/11/24 3:30
保存
共有
印刷
その他

グローバル化やエリート層への激しい攻撃で注目を浴びたトランプ氏を、米国民が次期大統領として選択して2週間余り。衝撃はまださめやらず、米国の先行きには不安が拭えない。米国の進むべき道を問い、世界が選挙からどんな教訓を学ぶべきかも考えたい。

高関税は雇用減らす

トランプ氏勝利の裏には様々な要因があり、単純には説明できない。だが、金融危機後の大不況や技術革新の波、グローバル競争の激化などによって暮らしの悪化を感じ、先行きに不安を覚える人たちから支持を集めたのは確かだ。

「工場の海外移転を止め、輸入品を抑え、不法移民を追い返せば雇用は守られ、生活も良くなる」「環太平洋経済連携協定(TPP)のような自由貿易協定(FTA)を結べば米国の雇用は失われるだけだ」。トランプ氏が説くそんな経済ナショナリズムが、不満を抱えた人々に心地よく響いた。

同氏は21日にTPPからの離脱を明言したが、問題はそうした政策が本当に悩める中間層の助けになるかだ。むしろ逆ではないか。

中国などからの輸入品に高関税をかければ一番困るのは庶民だ。日常品などが一気に値上がりするからだ。トランプ氏が攻撃する北米自由貿易協定(NAFTA)から米国が撤退し、TPPもご破算となれば、米企業の輸出機会も減り、雇用は悪影響を受ける。

高関税を脅しの武器にして対米貿易黒字国に輸入拡大を迫るのがトランプ氏の狙いとの見方もあるが、こうした管理貿易主義で米国の産業が強くなるとも思えない。

米国の保護主義傾斜は世界だけでなく米国民にも損失なのは明らかであり、方針を転換すべきだ。

トランプ氏が成長促進を重視するのは理解できる。米国経済は改善しているが、この流れを生産性向上で確実にすべきだ。先進国で最高レベルの法人税率引き下げや一定の規制緩和は経済活性化や生活水準の引き上げにつながる。

このほか大型の所得減税やインフラ投資も掲げるが、懸念されるのは財政への悪影響である。進め方によっては望ましくない金利や物価の上昇を招き、庶民の暮らしを直撃しかねない。「トランプ減税」で最も恩恵を受けるのが富裕層であるのも気になる点だ。

欠けているのは人々が大きな変化の波を乗り越えて暮らしていけるように下支えをする政策だ。中間層の雇用を脅かす主因は急激な技術革新・変化によって、必要な仕事や技能が変わってきていることだ。FTAや中国からの競争圧力で悪影響を受けた人もいるが、それは問題の根幹ではない。

「次世代コンピューターやロボットのあり方について投票するわけにいかないので、政治が決められるFTAが安易なスケープゴートになった」。TPP交渉責任者であるフロマン米通商代表部(USTR)代表はこう嘆いた。

簡単な答えはないが、需要が増える仕事に役立つ技能や知識を高められるように教育や職業訓練への支援を強化することが不可欠だ。給付付き税額控除などによって働く意欲がある低所得層を支えることも求められる。

機会の均等を確実に

トランプ氏が批判するオバマ政権下の医療保険制度改革は誰でも保険に入れるようにし、転職時の不安を和らげる効果もある。安易な改廃は中間層に打撃になる。

反自由貿易や反移民などを掲げ、その道を進めば雇用や所得は伸びるとの幻想をふりまく政治の潮流は欧州などでも見られる。

来年は仏大統領選挙など重要な選挙が重なる。トランプ氏当選は反グローバル化を掲げる政党の追い風になるかもしれない。だが内向きの政策では問題は解けず、人々の不満はむしろ高まるだろう。

日本もグローバルな貿易や人の動きが鈍れば経済や雇用にマイナスになる。正規社員と非正規社員の賃金格差などが問題になっているが、「トランプ流」の内向きな政策は課題の解決にはならない。

経済構造や技術の急激な変化、高齢化の進展など先進国はチャンスと試練の両方に直面している。

こうした変化からうまれる新たな需要や課題に即したイノべーションを促して成長力を高める。変化から取り残された人々の自助能力を高め、教育などの機会均等を確実にする。そうした政策に注力することで、中間層の厚みを増していくのが王道ではないか。

春割実施中!無料期間中の解約OK!
日経電子版が5月末まで無料!

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報