将来不安を映す民需の低迷
内閣府が発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質ベースで前期比0.54%増、年率換算で2.2%増となった。
0%台前半とされる日本経済の潜在成長率を上回ったが、中身をみると、民需の柱である個人消費と設備投資が低迷しており、数値ほどはよくない。安倍晋三政権は日本経済の弱点に向き合い、構造改革を加速してほしい。
7~9月期の実質経済成長率の大半は外需による貢献だった。アジア向けを中心に半導体製造装置や電子部品の輸出が伸びた。
外需(純輸出)は輸出から輸入を差し引いた値だ。それが大きかったのは、内需の弱さから輸入が4四半期連続で減ったためでもある。手放しでは喜べない。
米国のトランプ政権の誕生、英国の欧州連合(EU)離脱など、世界経済の先行きには不確実性が伴う。外需が日本経済をけん引し続けられるか不透明だ。
懸念されるのは、個人消費と設備投資がきわめて弱いことだ。
賃金総額である雇用者報酬は実質ベースで前年同期比3.0%増えた。1996年以来の高い伸びで、雇用情勢の改善を背景に所得環境は上向いている。
にもかかわらず、個人消費がほとんど増えていないのは、年金や介護など社会保障への将来不安から、若年層を中心に貯蓄を優先しているからではないか。
設備投資が精彩を欠いているのも、人口減が続く日本経済の将来の成長力に企業が確信を持てずにいるのが一因とみられる。
世界銀行がまとめたビジネス環境ランキングによると、日本は190の国・地域のうち34位にとどまる。安倍晋三政権が掲げる「2020年までに先進国で3位」という目標は遠く、成長戦略は失速している可能性さえある。
社会保障制度の持続性を高めて若年層の将来不安を和らげつつ、規制改革などの構造改革を再活性化する。そんな安倍政権の課題を今回のGDPは示唆している。