車のIT化は利便性と安全確保が両輪だ
自動車をインターネットにつなぎ新種のサービスを実現する動きが加速している。身近な交通手段である車が、より便利になる利点は大きい。関連する企業は、サイバー攻撃から車を守る安全対策に気を配りながら、車の進化に力を注ぐ必要がある。
いま自動車は変革期にある。ひとつは動力源の多様化だ。ガソリンエンジン一辺倒から電気自動車など次世代技術への移行が進む。もうひとつがIT(情報技術)との融合だ。自動運転車の研究開発や、高度な情報サービスの試みが世界で広がっている。
産業界では「つながる車」の市場拡大をにらんだ再編が活発になっている。半導体大手の米クアルコムは、オランダの同業、NXPセミコンダクターズを約5兆円で買収すると表明した。IT化する自動車の市場の開拓が大きなねらいだ。ソフトバンクグループも、半導体設計の英アーム・ホールディングスを傘下に収めた。
自動車メーカーなどは、これまでにないサービスを編み出し、新たな事業モデルを確立する好機といえる。ネット経由で車から集めたデータを生かせば、故障の前に整備を促すなどドライバーに有益な情報を提供できる。多くの人が効率的に車両を共有するカーシェアなどにも役立つはずだ。
有力なネット企業が参入するなど自動車業界の勢力図は変わりつつある。ITでどう車の魅力を高めるか。日本勢を含め、既存の自動車メーカーは発想力を問われるという自覚が要る。
同時に重要なのはセキュリティー対策だ。ネットに接続する車はサイバー攻撃の標的となりテロなどで深刻な被害を招くリスクを抱える。走行中の車のブレーキやエンジンを遠隔操作することが技術的には可能、との警告も専門家からは上がっている。
問題を指摘された自動車メーカーはソフトウエアの更新といった対策を講じているが、攻撃の手口がより巧妙になっていく可能性は否定できない。
自動車や部品のメーカー、IT企業などが一体となって対策に万全を期す体制が求められる。日米欧の交通当局がサイバー攻撃対策で連携する動きも出てきた。官民をあげて取り組むべき深刻な課題だとの認識が欠かせない。
人々に支持される「つながる車」は、利便性と安全性の確保が両輪になって初めて実現する。
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