クジラめぐる不毛な溝埋めよ
国際捕鯨委員会(IWC)の総会が2年ぶりにスロベニアで開かれた。商業捕鯨の再開をめざす日本と、いっさいの捕鯨を認めようとしないオーストラリアなど反捕鯨国の隔たりは大きいままだ。機能不全に陥っているIWCは根本から立て直す必要がある。
IWCはクジラの持続的な利用を目的に、1948年に設立された。しかし乱獲による資源減少が指摘され、82年には商業捕鯨の一時停止を決めた。
商業捕鯨の停止について日本政府は、科学的な調査で資源量を確認し商業捕鯨を再開することが目的だ、と各国に訴えてきた。国際捕鯨取締条約の規定や過去のIWCの議論に照らし合わせれば、日本の主張には理がある。
対して反捕鯨国は、IWCの目的そのものが有効利用から保護へと変わったと主張している。日本政府が地域文化として求めている沿岸での小型捕鯨の枠を設けることにも、強く反対している。
今回の総会ではさらに、調査捕鯨には従来のIWC科学委員会の評価だけでなく総会での議論も踏まえねばならない、とする決議案を提出し、採択された。捕鯨推進国と反捕鯨国は互いの主張を繰り返すだけで、溝が埋まらないどころかむしろ深まっている。
IWCの新しい議長には日本政府代表の森下丈二東京海洋大学教授が選ばれた。これを機にIWCの存在目的そのものを各国で確認し、合意をめざす必要がある。
魚類などへの影響も含めクジラ類の資源調査は必要だ。ただ、日本が従来すすめてきた調査捕鯨については国際司法裁判所(ICJ)が2014年、「科学調査目的とはいえない」として中止を命令していた。今後の調査はクジラを犠牲にしない目視を中心にするなど、反捕鯨国との対立を深めないよう政府は配慮してほしい。
70年代以前と比べ日本国内の鯨肉需要は大幅に減少した。遠洋での商業捕鯨をあきらめ、沿岸での捕鯨枠の確保に集中することも、政府は考えるべきではないか。