金融機関は顧客本位の姿勢を徹底せよ
個人の大切なお金を預かる金融機関は顧客の利益を最も重視すべきである。そんな当たり前の大原則に沿って事業体制を整える動きがようやく出始めた。
超低金利や年金不安をきっかけに、個人の資産運用の重要性が高まっていることが大きな背景の一つだ。金融機関は顧客本位の姿勢を貫くべきだ。
日本では、投資信託などを運用する主要な資産運用会社の大半が大手金融機関グループに属する。独立性が乏しいため運用の専門性が蓄積されにくいなど、顧客本位の事業経営とはいえないとの批判がつきまとっていた。
最近はグループ会社の影響力を受けにくくする試みがみられる。中立の立場から投信の運用や議決権行使をするためだ。
みずほフィナンシャルグループと第一生命ホールディングス系列の運用会社が統合したアセットマネジメントOneは、取締役会に両グループ以外の出身者も加えた。野村アセットマネジメントは野村証券からの人事異動の制限を徹底し始めた。
金融商品を販売する銀行や証券会社も、顧客本位という意味で問題含みと批判されることが多かった。典型例は手数料だ。
金融庁が純資産の大きな投信について金融機関が顧客から受け取る販売手数料率を調べたところ、米国の0.59%に対して日本は3.2%と高かった。日本は金融派生商品などを組み込んだ複雑な投信が多いため手数料も高いとされる。米国は比較的、仕組みの簡単な投信が多い。
売り手が商品の仕組みを丁寧に説明し、運用成績も良好であれば、手数料の高安は問題になりにくい。だが残念ながら手数料に見合うほど運用成績が良くなかったり、説明不足だったりする問題が古くからある。
個人が投信など金融商品への不満を強めればお金は引き続き預貯金に偏在し、株式市場で企業を育てる資金の流れが滞りかねない。経済全体のお金のめぐりを良くするうえでも、金融機関の営業姿勢は重要な意味を持つ。
金融機関の顧客本位の姿勢は「フィデューシャリー・デューティー」と呼ばれ、金融庁が行政方針の柱とした。しかし、当局に強いられるまでもなく、金融機関は自らの公共性の高さを意識し、「顧客本位」の大原則を自らに強く課すべきである。