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量から金利、長期戦への構え万全に

日本銀行が3年半続けた金融緩和の枠組みを改めた。金融政策を動かす目安を長期国債などの「金利」に切り替え、2%の物価上昇が安定的に続くまで長めに緩和を続けるようにする。マイナス金利の幅は年0.1%を維持した。

黒田東彦総裁のもとで導入した大胆な金融緩和策はさまざまな面で限界を迎えていた。マイナス金利も金融機関の経営を圧迫するなど副作用に懸念が集まっていた。日銀が緩和手法を現状に合わせて修正するのは妥当な判断だ。

物価低迷で戦術を転換

見直しの柱は2%の物価上昇を目指す金融政策の主な目安を「量」から「金利」に変えた点だ。

資金供給量(マネタリーベース)の数字を目安にする今までのやり方に代わり、短期金利と長期金利を金融市場での操作目標とする。長期金利については10年物国債金利を現状並みのゼロ%程度に保つこととした。

具体的には2年、10年、30年など期間の違う国債をバランス良く買い、短い期間から長い期間までの金利を示す「利回り曲線」が適切な状態になるよう工夫する。全体の金利水準を低くして経済を刺激する一方で、短期と長期の差が縮まりすぎて金融機関の利ざやが悪化しないよう配慮する。

第2の柱は、2%の物価目標を達成してもすぐに緩和を止めず、2%台が定着するまで強力な緩和を続けると約束した点だ。物価低迷が長引いた日本で、消費者や企業に物価が着実に上がる感覚を根付かせる狙いがある。

2つの措置は日銀は3年半の緩和策を分析した「総括的な検証」を踏まえて決めた。日銀は年50兆円、のちに80兆円の国債を買い入れる「量的・質的金融緩和」で資金供給量を大幅に増やしてきた。当初は円安と株高が進み2014年には1.5%の物価上昇が実現したが、その後は原油安や新興国不安などの逆風で鈍化している。

いわば短期戦の大胆な緩和を続けたが、目標は遠い。そこで日銀が長期戦を覚悟して戦術を転換したともいえる。

従来の政策は様々なひずみを生んでいる。いまや日銀は発行残高の3分の1を超す国債を持ち、今後は買い取りの余地も限られるとの指摘が多い。国債の購入増額は今回は年80兆円を維持する方針だが、将来は金利や経済の環境も見ながら柔軟に減らしていける余地ができた。

今年2月に導入したマイナス金利も批判が強い。金融機関が日銀に置く当座預金の一部に「手数料」を課し、資金を市中に流して融資を促す政策だが、金融界からは収益の悪化を招くと反発が起きている。長短の利回りを適切に維持する措置は弊害を和らげ、マイナス幅の拡大にも余地を残す。

長期金利がうまく操作できるかどうかという問題はあるが、全体としては経済や金融活動の実態に合わせて金融政策を運営できるようになる。マイナス金利が金融機関にもたらす悪影響も直視して政策の枠組みを直したことで、金融市場や金融機関との対話が向上することも期待したい。

日銀は物価上昇の力を押し上げるため、マイナス金利の引き下げ、長期金利の操作目標の引き下げ、資産の買い入れの拡大、さらに資金供給量の拡大ペースの加速といった追加緩和の手段があると指摘した。マイナス金利の幅の拡大が追加緩和の有力な候補になるとみてよいだろう。

政府も成長策で協調を

だが、マイナス金利にしても国債買い入れにしても、その副作用に十分注意し、闇雲に拡大を続けるのは戒めるべきだ。金融市場の環境が大きく変わったり、景気の勢いが急速に衰えたりしたときの非常手段として追加緩和の余地を残すのが賢明ではないか。

8月に米国で開いた世界の主要中央銀行の会合では、先進国で共通する潜在成長力の低下を金融政策だけで補うのは難しいという意見が大勢だった。日銀だけが大規模な緩和をいくら強化しても、経済活動や物価見通しが大きく改善するわけではない。

政府も企業も経済の潜在力を高める改革に一段と深く踏み込み、日銀の緩和策との相乗効果を高めていくことが急がれる。安倍政権は働き方改革や税制、規制改革などの検討作業を次々と立ち上げた。社会保障制度や財政の長期的な安定にも目配りし、日本経済の潜在力を高める包括的な改革を進めなければならない。

民間企業も日銀の緩和が生んでいる現在の低金利の環境を活用し、積極的な成長に向けた投資を進めていくべきだ。

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