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IBMが「デジタル広告代理店」に変身

藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

大型コンピューターを販売し、金融をはじめ大手企業の情報システム開発を引き受けるIT(情報技術)企業大手といえば、IBMをだれもが思い浮かべるだろう。そのIBMが、実は世界最大の「デジタル広告代理店」と聞けば、驚くかもしれない。

IBMのロメッティCEOは「ワトソン」を活用した消費者向けサービスも広げる

同社のデジタル広告事業部門である「IBMインタラクティブ・エクスペリエンス」は、世界25カ国に事務所を開き従業員1万人を超え、同社でも最大級の事業部門へと急成長中なのだ。業態開発を急ぐ同社は、今年に入ってecx.ioやブルーウルフなど、それぞれ専門分野で評判の高いデザイン事務所大手だけでも4社を次々に買収している。その動きはまさに「急」だ。

どうしてIBMが広告代理店事業へのシフトを急ぐのか分析する前に、これが同社だけの動きでないことに触れておこう。やはりIT分野で存在感を誇る、大手コンサルティングのアクセンチュアも、デジタル広告事業部門「アクセンチュア・インタラクティブ」の強化を急ピッチで進めている。同社もデジタル広告代理店としてすでに世界第3位という。

同部門は2013年に設けられたが、大手デザイン事務所「フィヨルド」をはじめとする著名企業を買収し、わが国でも、企業向けウェブサイト開発大手「アイ・エム・ジェイ」を買収するなどし、こちらも急拡大を図っている。

同社は最近になり米ニューヨーク市に、数百坪の「コンテンツスタジオ」を開設した。ここでは主に交流サイト(SNS)最大手フェイスブックに流す30秒程度の動画作品を、広告主らの求めに応じて制作するようだ。

さて、なぜ広告代理店なのか、そして、なぜデザイン事務所なのだろうか。もちろん、世界で覇を競う総合広告代理店業には、WPP、オムニコム、ピュブリシス、インターパブリック、そして電通らが存在するが、今後は中でもデジタル分野が最重要分野だ。

先進的な大手企業は、自らウェブサイトを立ち上げ、モバイルアプリを開発し、そこに広告とは異なり読み応えのある記事を掲載する「オウンドメディア」開発の動きを見せている。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

一方で、自社の製品やサービスの情報を、大手SNSを通じて多くの消費者が話題にするようにも求める。いずれも、ネット上の消費者の関心をつかむ動画制作が重要だ。広告枠をめぐってテレビなど商業メディアと取引していればすんだ時期は過ぎた。

さらには、デジタルデザインとデジタルマーケティングが重要だ。製品やサービスを利用する消費者の体験と、ネット上での好ましいブランドイメージとを合致させる必要がある。現代のデザインの大きなテーマだ。

また、匿名で膨大なインターネット上の消費者から的確に狙いを定め、企業、製品、サービスのファンを養成していく必要もある。

データ分析が中心となるこの分野で、デジタル広告代理店機能へのシフトに先駆けて、IBMやオラクル、セールスフォースらIT大手は、何年もかけて「マーケティングオートメーション」と呼ばれる分野で企業買収を繰り広げてきた。

IBMは人工知能(AI)技術を活用した「ワトソン」でも、小売店と組んで的確な商品を薦めるといった消費者向けサービスを広げている。

IT大手の変身は、まさに現代の消費活動がメディアやデザインの新しい段階に進んでいることを端的に表しているといえそうだ。

[日経MJ2016年9月19日付]

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