海底レアアース資源 20~30年先にらんだ戦略を
編集委員 久保田啓介

2016/9/19 6:30
保存
共有
印刷
その他

本州の南東約1800キロの南鳥島沖の海底で、レアメタル希少金属)を含む岩石が大量に見つかった。近くの海域では4年前、ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)を含む泥も発見され、採掘へ産学が動き出した。いずれも日本の排他的経済水域(EEZ)にある貴重な資源だ。商業利用できるか未知数の部分は残るが、官民が長期戦略を描くときだ。

海洋研究開発機構などが南鳥島沖海底で見つけたマンガンやコバルトを含む岩石

海洋研究開発機構などが南鳥島沖海底で見つけたマンガンやコバルトを含む岩石

南鳥島沖で見つかったのは「マンガンノジュール」と呼ばれる球状の岩石。海洋研究開発機構などが有人潜水調査船「しんかい6500」を使い、水深5500~5800メートルの海底から岩石を採取。マンガンが約20%、コバルトが0.4~0.5%占めていた。

資源は採掘が難しいとみられている。ノジュールは直径数センチ~10センチあり、海底から引き上げるのは容易ではない。岩石中の銅、コバルト、ニッケルは資源として有望だが、安価に回収する精錬技術が未確立なためだ。

一方で、採掘へ期待が膨らむのがレアアース泥だ。2012年、東京大学の加藤泰浩教授らが見つけ、高性能磁石に不可欠なジスプロシウムなどを多く含む。南鳥島周辺だけで、日本の国内需要の250~2000年分を賄える可能性がある。

南鳥島沖の海底からレアアース泥を引き揚げる東大加藤教授らのチーム

南鳥島沖の海底からレアアース泥を引き揚げる東大加藤教授らのチーム

レアアース泥も水深5千メートル以上にあり、当初は採掘困難とみられていた。中国の輸出規制で一時急騰したレアアース価格も13年以降は下落し、採掘へのコスト環境も悪化していた。

だがこの4年間で、技術開発は着実に進んでいる。レアアース泥は粒が小さく、海底まで下ろしたパイプに圧縮空気を送る方式で泥を引き上げられる。特定のサイズの泥粒だけ引き上げる「選鉱」技術によって、高濃度のレアアースを回収できるメドが立ってきた。

14年には三井海洋開発やIHI、トヨタ自動車、東京大学など20以上の企業と大学が集まり「レアアース泥開発推進コンソーシアム」が発足し、共同研究が進む。「既存技術を組み合わせれば採掘は射程に入ってきた」と、加藤教授は訴える。

本格採掘には官民の協力と資金が欠かせないが、政府は慎重な構えだ。

政府が13年に決めた海洋基本計画では「レアアース資源は当面は基礎的な調査・研究をする」とし「商用化」の文字はない。経済産業省が今年7月に発表したレアアース泥の採掘可能性に関する試算でも「市場価格が過去最高水準で20年間維持される場合に限り、経済性が見いだされる」と、厳しい評価を下した。

だが専門家から「政府の経済性評価は最近の技術開発の成果を反映していない」と批判が漏れる。背景に省庁ごとに思惑があり、利害が対立していることもあるようだ。

経産省はこれまでレアアースの安定確保に向け、ベトナムなどで海外鉱山の権益確保に注力してきた。政府として海底資源の開発に軸足を移すと、これまでの権益確保が無駄になる。

環境省なども、レアアースに似た性能をもつ代替材料の開発や、携帯電話などから金属を回収する「都市鉱山」に力を入れてきた。20年の東京五輪・パラリンピックではメダルに使う金銀銅を都市鉱山から賄う構想が浮上。「これを機にレアメタルの回収技術を加速させたい」(環境省)

両省とも「海底資源開発の足を引っ張ったことはない」と説明するが、予算要求などの際に予算づけが後回しになっている状況は否定しない。

足元でレアアース価格は落ち着いている。だが世界生産量の9割を握る中国では採掘に伴い放射性物質トリウムが出る環境問題に直面し、長期的に安定供給できるか不透明だ。海底資源開発とリサイクル技術は必ずしも二律背反の関係にあるわけではなく、並行して進められるはず。関係省庁の利害を超えて、官民が20~30年先をにらんだ開発戦略を描く時だ。

[日経産業新聞2016年9月15日付]

日経電子版が最長2月末まで無料!
初割は1/24締切!無料期間中の解約OK!

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]