IoT海の家 トイレの空きをスマホに表示
山田 剛良(日経コンピュータ副編集長)

2016/9/8 6:30
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モノをインターネットにつなぎ、新しいサービスを生み出すIoTが話題だ。この夏、神奈川・江の島の片瀬東浜海水浴場に、IoT技術を実験する海の家が登場した。

店内には大型ディスプレー。参加したIT企業を集めたイベントも開かれた

店内には大型ディスプレー。参加したIT企業を集めたイベントも開かれた

実はここ、以前に本欄で紹介したIT(情報技術)企業が運営する。IoTの新サービスなどをもくろむ企業と組み、自社だけではできないサービスを実現した。

「写真撮りましょう!こっち向いて、ハイチーズ!」。通りかかったお客さんに声を掛けたのは2足歩行ロボットのPalmi(パルミー)。海の家のフロントに当たる場所に設置されている。

撮った写真はクラウドのサービスを使って表情などを解析。「みんなとっても良い笑顔で、こっちまで元気になります!」などとコメントを自動で付けて、海の家のフェイスブックページに投稿する。お客さんは後でページにアクセスすれば、写真をダウンロードできる。

座敷席の大きなディスプレーでは、食べ物や飲み物の売れ筋をランキングで表示。Wi-Fiでネットが快適に使えるため「テレワーク席」と称する有料の仕事スペースまである。海に入らないで仕事を片付けに来る常連が何人もいるらしい。

店の裏にあるトイレのドアには、IoTセンサーを仕込んだ。鍵の開閉を検知、スマホで中継する安価な仕組みで「使用中」か「空き」かリアルタイムでディスプレーに表示する。「東京からでもスマホで江の島のトイレの状況が分かる。分かってもしょうがないけどね」と、海の家を運営するセカンドファクトリー(東京都府中市)の大関興治社長は笑う。

同社が4年前に始めたこの海の家は、首都圏屈指の人出を誇る片瀬東浜海水浴場の中でも1、2を争う人気店だ。徳島県の農家と組んだ食材やメニューの工夫で、今年も2カ月で5000人近くを集めた。

クラウド型POSレジの運用検証が当初の目的だったので、Wi-Fiなど海の家らしからぬITインフラがそろっている。これに目を付けた同業各社から、繁盛店で自社サービスを検証したいと申し出が相次ぎ「IoTの実験場のようになった」(大関社長)。座敷席の壁には協力IT企業のロゴがずらりと並ぶ。

やまだ・たけよし 東工大工卒、同大院修士課程修了。92年日経BP社に入社、「日経エレクトロニクス」など技術系専門誌の記者、日本経済新聞記者を経て16年から現職。京都府出身、50歳

やまだ・たけよし 東工大工卒、同大院修士課程修了。92年日経BP社に入社、「日経エレクトロニクス」など技術系専門誌の記者、日本経済新聞記者を経て16年から現職。京都府出身、50歳

例えばIoTトイレのシステムはシステム構築のユニアデックス、座席の混雑状況の記録システムはTDモバイル、売り上げデータのランキング表示はウイングアーク1st、ロボットはDMM.make ROBOTSが提供している。

思うように効果が出ないサービスもあるが「それは仕方がない。むしろ行きすぎを反省させられる」と大関氏は話す。

IoTトイレを見た飲食業オーナーには「ディスプレーでの表示なんかぜんぜん要らないけど、トイレが何回利用されたかを安価に正確に把握できるのはいいね」と言われた。トイレの利用回数で清掃のタイミングを決めれば、業務効率を上げられるという発想だ。「IT屋の僕らはすぐに技術を使いたがるが、現場の顧客の関心はもっと手前にある」(大関氏)

IoTコンサルティングを手掛けるウフルの八子知礼上級執行役員は「IoTを手掛ける企業はこうした場所を求めていた」と説明する。新しいシステムは想定通りに効果が出るか確認が欠かせないが、実店舗での実験はかなり難しい。店舗との交渉から考えると1年単位の時間が必要で、やれることも制限される。

海の家なら7~8月の短期決戦で検証でき、負担も軽い。もともと仮設の建物なので、手作り感あふれる機材でも許されるのも利点。来年は「IoT海の家」をまねするところが出てきそうだ。

[日経MJ2016年9月5日付]

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