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AIにVR 五輪は新たな報道のお披露目会

藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

閉幕を迎えたリオデジャネイロ五輪は、熱のこもった競技結果だけでなく、デジタル報道の多彩な可能性が国内外で花開いたことでも記憶されることになりそうだ。

まず、国内で注目を集めたのは、民放とNHKが、それぞれ五輪報道用に本格的なスマートフォン(スマホ)向けアプリを投入したことだ。

民放5局が連携したのは「gorin.jp」。NHKは「NHKスポーツ」を五輪報道用に大きく改修した「Rio2016オリンピック」だ。いずれもテレビでは得られない選手ごとの番組表や、見逃しがちな競技も後から視聴できる機能などを提供した。

「gorin.jp」では当然ながら大手広告主の動画広告も配信され、単に実験だけでない成果が得られそうだ。NHKはテレビとインターネットの同時ライブ配信をついに実現するなど、今後のスポーツ報道を刷新する転換点となった。

新聞社では、日本経済新聞や読売新聞が目を引いた。五輪報道チームが現地での日本人選手らの表情を撮影し、次々に交流サイト(SNS)のインスタグラムに投稿。自社サイトへの誘導は狙わず純粋に報道写真を楽しませようとする、潔い姿勢を見せた。

国外の取り組みでなにより目を引いたのが、VR(仮想現実)映像だ。多数のカメラで撮影した映像を合成し、視聴者が競技や会場の雰囲気を自由な視点から見ることができ、臨場感を味わえるものだ。

米国の最大手ネットワークのひとつNBCは、リオ五輪会期中にのべ260時間にわたる放映をする取り組みで話題を集めたが、韓国のサムスンなどと組んで開会式のような壮大な映像を筆頭に、計85時間ものVR映像を放映。同社の有料購読者向けの目玉番組とした。今回は録画放映が主だったが、将来はライブ360度動画が主役になるだろう。

VRに取り組むのは、NBCだけではない。映像作品を世界の報道各社にライセンス販売するゲッティイメージズは、公式写真スポンサー企業として多数のカメラマンを現地に派遣。その全員に360度撮影が可能なカメラを携帯させた。

僅差によって勝敗が決する競技が多いことから、データを活用してアスリートらの壮絶な戦いぶりを可視化する試みも広く行われた。ニューヨーク・タイムズは、女子競泳400メートル自由形の接戦ぶりをデータからアニメーション化して見せた。

今大会の報道面の主役は、ロボットだったかもしれない。ゲッティイメージズは、競泳の報道用にプール中に「水中カメラロボット」を配置。従来では撮影できなかったような低い位置からの迫力ある水中映像を無人でこなした。

米ワシントン・ポストは人工知能(AI)に速報記事を書かせ、メダル獲得状況などを複数の言語でリアルタイムに伝えた。ニューヨーク・タイムズら複数のメディアが、会話アプリを通じて試合経過を伝えた。

これらの試みが総合され、「東京2020」では、利用者の興味に沿って専用の競技中継や速報の配信が人手を介さず行われる図が、現実味を帯びてきた。

東京五輪は時差のない報道になる。昼間は、スマホやウエアラブル端末など、テレビ以外の機器での配信の比重が高まるはずだ。

[日経MJ2016年8月22日付]

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