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米西海岸で見たフィンテックと銀行の関係

校條 浩 (米ネットサービス・ベンチャーズ マネージングパートナー)

シリコンバレー銀行(SVB)はシリコンバレーに根ざした銀行だ。SVBの銀行としての規模は中堅だが、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)の実に90%以上と取引しているという。さらに80%以上の地元ベンチャー企業がSVBに口座を持つ。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

SVBは、金融とテクノロジーを融合させたフィンテックとの関わりが活発だ。自社の変革をフィンテックをテコに進めようという意思がある。簡易カード決済システムのスクエアや、ソーシャルレンディングと言われる融資仲介システムのレンディングクラブなどに以前から出資している。銀行向けAPI(異なるアプリケーションをつなぐシステムの「継ぎ手」)の基盤システムを開発したベンチャー企業を買収している。

SVBによれば、今のままでは銀行の将来は明るくないという。コンプライアンス(法令順守)の要求が厳しく、業務システムの基盤が古く、顧客に提供するサービスは銀行間で大差なく、利益が出しにくい状況なのだ。さらに最近は、IT(情報技術)を駆使した異業種からの侵食を受けるようになった。その流れを変えるために、SVBはフィンテックを変革のテコの中心として据えている。

ITは今までは金融システムの脇役だったが、今では金融サービスの中心となり、事業を先導する時代が来たのだ。この新しいITパラダイムの技術やサービスを総称してフィンテックと呼ぶ。フィンテックは時代の流れから自然に出てきたものだ。

インターネット、ブロードバンド、クラウド、ビッグデータなどのインフラが整備された。モバイル機器の普及により、すべての顧客がコンピューターと一体となり、個々のユーザーがクラウドにつながった。人工知能(AI)技術や仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンが加わり、安全要求の高い金融システムをITが主導する条件が整ってきた。

今までのITの役割は業務のオンライン化や効率化など、主に決まった業務プロセスをシステム化することだった。銀行の経営陣から降りてきた要求をシステム部門が受け、外部のIT企業がそれを受注する仕組みが採られてきた。

次の時代はフィンテックが経営そのものの根幹となっていく。フィンテックの特徴は「業務中心」から「顧客中心」へのパラダイム転換だ。個々の業務窓口に顧客が出かけていってやっと目的が達成されるような現在の金融サービスから、スマートフォンの画面にあるたったひとつの窓口で金融サービスも含めたすべてのサービスが実行できる世界に向かっていく。

顧客がいったん手にした利便性は絶対に後戻りしない。フィンテックによる顧客サービスに慣れた顧客は、銀行にも同様のサービスを求めてくるだろう。大手金融機関である米キャピタルワンやスペインの銀行であるBBVAがユーザー体験(UX)を設計するデザイン会社を買収したことは偶然ではない。

新しいITパラダイムとして、フィンテックは銀行の経営そのものを変えていく。ITとフィンテックに明るい経営幹部の登用やIT部門の意識改革などが必要となってくる。システムを開発するIT企業も請負業から事業創造リーダーへの根本的な事業転換を迫られる。ITはもはや「理科系」のものではない。顧客中心のパラダイムをもたらす経営の根幹としてフィンテックはすべての経営者の必修科目となる。

[日経産業新聞2016年8月2日付]

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