商品購入し社会貢献 物語でブランド選ぶ
(三浦茜)
インターネット生まれの優れたブランドづくりの事例として、米国で度々話題となる「ワービーパーカー」というメガネショップがある。2010年ニューヨーク生まれのこのブランドは、ニール・ブルーメンソール氏とデーヴ・ギルボア氏によって、学生でも買える値段でデザイン性の高いサングラスを提供するために創業された。

従来は数百ドルしたハイセンスなメガネが、ワービーパーカーでは100ドル以下だ。デザインは社内で手掛け、顧客と直接やり取りしてコストを抑えている。
ワービーパーカーの人気の理由はデザインや価格だけではない。「Buy a pair,Give a pair」という、メガネを購入すると自動的に社会貢献できる仕組みがあるのだ。
毎月売れたメガネに応じてパートナーのNPO団体に寄付し、発展途上国にメガネ販売支援を行っている。現在、全世界で7億人がメガネが必要にも関わらず、手に入れることができない状態にある。
その人達に単にメガネを寄付するのではない。視力検査とメガネ販売の方法を覚えてもらうことで、継続的な収入を得られるとともにより多くの人にメガネが届く仕組みにした。すでに200万を超えるメガネがこのプログラムによって届けられているそうだ。
目が悪い人はメガネがあることで35%生産性を上げられ、20%の収入増が見込めるという。安価な製品を提供するために労働者を酷使する企業の話も耳にするなか、心温まるブランドづくりだ。安い、オシャレというだけでなく、その先の共感できるストーリーを通販サイトで語っている。
発展途上国のみならず、ニューヨーク市と協力して貧困層の子供へのメガネ支援もスタートした。昨年は多額の資金調達を行っている。店舗の拡大と、モバイルアプリを使った視力測定の技術開発に資金を投入する予定とのことで、さらなる展開も楽しみだ。
ワービーパーカー以外にも、商品を購入すると社会貢献できるサービスが広まりつつある。

女性向け生理用品の定期購入サービスを提供するCORA(コーラ)は、オーガニック素材のタンポンを販売するだけでなく、世界中で100万人を超えるという生理用品を手に入れられない少女たちを支援している。
こちらも商品をそのまま届けるのではなく、パートナー団体とともに活動している。正しい衛生知識がない、また生理期間中は学校を休むのが日常化しているような発展途上国の少女達に、正しい知識といつもと変わらない日常を届ける取り組みだ。
コーラのサービスは月10ドル程度で利用できる。少女達の状況を考えると、むしろ支援のために購入したくなる。買い物が社会貢献になるのではなく、毎月募金しているような感覚で、そのブランドを使い続けるという選択肢もあると感じた。
米国では適正な価格で購入して作り手を支援する「フェアトレード」であることや、環境に配慮していることを訴えるブランドは度々見かける。自身の購買活動が生み出す社会的インパクトについて責任をもつ風潮は日本よりも強いようだ。
(スクラムベンチャーズ マーケティングVP)
〔日経MJ2016年7月29日付〕