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鮮度抜群 タイにセブン1号店

悲願の物流網整備果たす

タイ・CPグループ会長 タニン・チャラワノン氏(23)

臭いをなんとかしなければならないと考えていた。CP(チャロン・ポカパン)の工場で加工した鶏肉、豚肉は流通業者の手に渡り、翌朝に生鮮市場で売られた。タイは年間を通じて平均30度の暑さが続く。冷蔵設備のない生鮮市場は不快な臭いが漂った。商品が腐敗すればCPの信用問題にかかわる。

小売業者には我々が提供した冷蔵庫に生鮮肉を入れて売ってもらった。それでも当時のタイの物流網はあまりに遅れており、品質を保証しきれなかった。食品事業の垂直統合経営を完成させるうえでも、消費者まで到達する自前の流通チャネルを持たなければならないと痛感していた。

機会は思わぬところからやってきた。1980年代初めにオランダのエネルギー大手企業が中国で石炭事業をしたいと言って私を訪ねてきた。中国で大々的に事業をしている外国企業といえば、CPぐらいしかなかった時代だ。このオランダ企業がSHVホールディングスだ。SHVは中国から石炭を買い、代わりに中国に港湾設備を売ろうと考えていた。私は中国政府のエネルギー部門に話をつけ、まさにビジネスが動き出そうとしたときに破談となった。オランダが台湾に潜水艦の売却を決め、中国とオランダの関係が悪化したからだ。

実現しなかった石炭ビジネスだが、これでSHVの幹部と親しくなった。SHVは傘下にマクロという大手の流通企業も持っていた。マクロはキャッシュ・アンド・キャリーと呼ばれる業態で、料理店や食品小売店に現金で商品を販売する事業をしていた。私はマクロを誘致したかった。

SHVでマクロの事業を担当していた責任者は「タイにこの業態は早すぎる」と難色を示したが、私はオランダ本体のトップに直談判して説得した。88年に合弁企業を設立し、悲願の物流体制の整備に取りかかった。翌年にタイ1号店を開いた。飲食店や小売業者らは会員になればCPフーズの商品を優遇価格で購入できるようになった。

次はコンビニエンスストアだ。ここでもチェース・マンハッタン銀行(現JPモルガン・チェース)のお世話になった。ブロイラー導入を仲介してくれたチェースはその後も米国で私が見たいもの、会いたい人の手配をしてくれた。

80年代、セブンイレブンはまだセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入っておらず、米サウスランドが総本部だった。そのころのタイの1人あたりの国内総生産(GDP)は約千ドル。コンビニ業態は早いとみられていたが、私はタイでも十分にいけると踏んだ。消費者の購入額が低くても、1店あたりの顧客数は米国の15倍にはなるはずだ。場所代、人件費も安い。

サウスランドの会長、社長だったトンプソン兄弟をタイに招いて現場を見てもらい、納得してもらった。89年、外国人観光客が集中するバンコク中心部のパッポンに1号店を開くと、昼も夜もお客さんでにぎわった。

最後がスーパーだ。ロータスと名付け、90年代半ばから店舗網を広げた。CPグループは物流センターをタイ各地に設け、冷凍だけでなく、チルド輸送の仕組みを完成させた。我々の商品から不快な臭いはとうの昔に消え、鮮度抜群の状態で消費者の前に並べられている。

(CPグループ会長)

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