大事件、個人が生中継 「SNS報道」時代の光と闇
藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

2016/7/28 6:30
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この7月、世界を震撼(しんかん)させる事件がいくつも起きた。その印象が強いのは、事件の、まさにその進行形の映像が私たちの目に映ったことにもよっている。

そのひとつは、米国テキサス州ダラスの警察官狙撃事件の現場だ。警察官による黒人男性射殺事件をめぐる抗議デモのさなか、警備に当たっていた白人警察官らが次々に狙撃された。逃げ惑うデモ参加者、警察官らが応戦する緊迫した光景が断片的ながら動画中継された。

前日には、ミネソタ州ファルコンハイツで、ドライブ中に職質を受けた黒人男性が、やはり警察官に射殺されている。この事件では、警察官に撃たれた男性の姿とその後の警察官の振る舞いを、同乗の女性が一部始終を中継し、生々しい事件の現場を世界中へと届けた。再生も含めると、600万回近く視聴されている。

これを可能にしたのが、スマートフォン(スマホ)に搭載されたカメラと交流サイト(SNS)のライブ中継機能だ。

ツイッターが昨年「ペリスコープ」という動画による生中継機能を、そしてフェイスブックも今年「ライブ」という同様の機能を公開。いずれもSNS上の膨大な利用者らに放映する仕組みであり、個人はもちろん、報道機関やイベント主催者らによる利用も進んでいる。

冒頭の一連の報道ではフェイスブックライブが大きな役割を果たした。あるジャーナリストはそれを「第2次世界大戦の戦況を伝えたラジオ、ケネディ大統領暗殺を報じたテレビ、湾岸戦争を中継したケーブルテレビ、そして、アラブの春でのツイッター」に等しい歴史的な役割と述べている。

個人がスマホひとつで、世界中に大事件を生々しい映像とともに伝えることができるようになったのだ。

偶然に? 「歴史的報道」を担ったフェイスブックだが、称賛よりも、その果たす影響力の大きさに対して備えが足りなかったとする厳しい批判が相次いでいる。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

というのも、ドライブ中の男性射殺事件では、その投稿を一時、削除してしまい批判を呼んだ。同社は「システムの障害」によるとしているが、暴力シーン等を含んだ映像への同社の取り扱い指針に関係があると見るべきだろう。だが、暴行シーンを含んだ投稿が長時間放置されたりするケースもあり、筋が通らないとの指摘もある。

そもそも、フェイスブックは、ライブの普及をやみくもに促してきた。同社は総額5000万ドルも使ってメディア企業や有名人に投稿を求めたとされる。そのためか、「バズフィード」がスイカに幾重にも輪ゴムをかけて爆発するまでを中継したり、「ニューヨーク・タイムズ」がただ近隣の公園を歩いて見せたり、愚にもつかない「作品」を大量に生んだという背景がある。

ライブ機能が犯罪に利用されることを抑止できるかにも注目が集まる。すでに、ペリスコープでは、危険と目されるユーザーを十数万件も利用停止にしているという。

テロや犯罪の宣伝塔となる懸念の排除は緊急の課題だ。ジャーナリズムの未来を切り開く可能性とともに、暴力や犯罪の未来も開くというリスクがそこにはある。

[日経MJ2016年7月25日付]

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