「日本の台所」 次は「世界のキッチン」へ - 日本経済新聞
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「日本の台所」 次は「世界のキッチン」へ

欧州で工場買収、美食届ける

タイ・CPグループ会長 タニン・チャラワノン氏(22)

いかに事業を受け継ぎ、守るかと聞かれればこう答えることにしている。「方法は1つしかない。事業を創造し、生み出し続けるのみだ」。父は野菜の種の販売で身を起こし、兄たちは飼料に手を広げた。後を継いだ私は養鶏、養豚、エビの養殖、食品加工、小売り、通信に前後して進出してきた。

タイにブロイラーを導入した私はすぐさま養豚業に着手した。1970年代から80年代にかけて欧米企業と提携し、ブタの改良品種をタイに持ち込んだ。だが欧米の品種はタイの人々の好みに合わなかった。CP(チャロン・ポカパン)は品種改良に乗り出し、90年代には独自に開発した品種を投入した。

次はエビのブラックタイガーだ。CPは台湾でも飼料、養鶏業を手掛けており、タイからトップを派遣していた。この人物が「台湾ではエビの養殖が盛んだ」とささやいた。私は「興味があるならタイに技術導入しなさい。あなたに任せたい」と答えた。

エビの養殖は60年代に日本で始まり、台湾に伝わった。エビなら日本ということで日本の商社と組んで養殖をしてみたものの、クルマエビはタイの気候に合わなかった。結局、タイの気候に合っているブラックタイガーの養殖技術を台湾から導入し、その後は病気に強いバナメイと呼ばれる品種に切り替えた。

エビの養殖の手順も養鶏業や養豚業と変わらない。我々がまずエビのプランクトンを稚エビにまで育て、その後に養殖家に渡して育ててもらう。エビは87年から日本に輸出を始め、日本の食生活を劇的に変えた。日本でエビフライやすしの材料が安価に手に入るようになった。その後、ブラックタイガーは欧米にも輸出し、世界中に広がった。

鶏肉、豚肉、エビと事業が拡大するなかで、台湾で畜産業を管轄する高官から重要な示唆を受けた。「絶対に食品加工業に参入した方がいい」。焼き鳥用に串刺しにした鶏肉を日本に輸出していたが、冷凍加工食品は手掛けていなかった。80年代後半、タイでも電子レンジが普及し、冷凍した料理を家庭で温めて食べる環境が整いつつあった。

新工場には肉やエビを料理に仕上げる生産ラインを併設した。鶏の空揚げ、チキンナゲット、豚肉ステーキ、エビカツ……。ワンタンのなかにエビを刻まずに1匹まるごと入れたワンタン麺は自慢の一品だ。えびのぷりぷりした歯応えを楽しめる。カップのなかに具と麺、スープを入れ、急速冷凍して出荷している。新製品が開発されるごとに、私自身で味を確かめて改善案を示している。

CPが開拓したブロイラーの養鶏やブラックタイガーの養殖は多くのタイ企業が追随し、我々を追いかけるように日本への大量輸出が始まった。いつしかタイは「日本の台所」と呼ばれるようになったが、ここで立ち止まる私ではない。私はアジアを越えて「世界のキッチン」になるというスローガンを打ち出した。

2年前にベルギーの総菜工場を買収し、タイ風のアジアの美食を欧州の皆さんに食べていただいている。この工場は自動化を究極まで進め、7人の技術者がいるだけで労働者はいない。同じような自動化工場を世界に広げ、世界中の食卓に美食を届けたい。

(CPグループ会長)

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