湯の里絶えさせぬ 熊本地震3カ月・再起へ(上)
阿蘇手探りの観光復興

2016/7/15 3:30
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3カ月ぶりの客を迎え入れるための修繕工事が急ピッチで進められていた。雄大な阿蘇山を望む熊本県阿蘇市の内牧温泉。唯一休業が続いている温泉旅館「蘇山郷」の3代目館主、永田祐介さん(43)は「地震前より価値を高めたい」と再起を期する。

熊本地震の本震が起きた4月16日は暗闇の中、無我夢中で宿泊客25人の避難誘導に追われた。絶望に駆られたのはその3日後。電気が復旧し設備の損傷を確認したところ、100年近く湧き出ていた温泉が途絶えていた。断層がずれ、地中のパイプが断裂してしまったようだ。

■交通網なお寸断

募るばかりの焦りを振り払うように、元の源泉近くを掘り進める作業にかけた。2週間余り後の6月中旬、地下約150メートルから再び温泉を掘り当てることに成功した。「これでまたやれる」。本震から3カ月の今月16日、営業を再開する。

2度にわたる激震は旅館や商店などの生業にも深い傷痕を残した。内牧温泉では4施設で湯が止まり、15施設全てに建物被害を含む影響が出た。宿泊キャンセルは5月までに約15万人、約21億円分。観光客の足は遠のいたままで、懸命の復旧・復興が続いている。

環境は厳しい。大動脈の国道57号は阿蘇大橋の崩落などで通行止めが続き、復旧時期の見通しは立たない。国の重要文化財の阿蘇神社の楼門は倒壊し、景勝地の草千里へ続く県道も寸断されるなど阿蘇の観光資源は大きく傷ついた。夏休みは最大のかき入れ時だが、どの施設も秘策はない。

阿蘇温泉観光旅館協同組合(阿蘇市)の幹部は「この夏休みをあきらめているところもある」と苦しい胸の内を明かす。7月に始まった国の復興支援で旅行代金を割り引く「九州ふっこう割」は好調だが、「一時は良くても反動は絶対に来る」と不安を隠せない。6月下旬以降の豪雨でも被害に見舞われ、今も余震は続いている。

■今の姿伝える

八方ふさがりのなか、NPO法人などが7月上旬、道の駅阿蘇を拠点に「ASO復光スタディプログラム」をスタートさせた。住民らが熊本地震の体験を伝える語り部活動や、地震でできた断層の亀裂をガイドとともに回るサイクルツアーなどが主な内容だ。

阿蘇は約27万年前から活発な火山活動を繰り返してカルデラを形成するなど、自然のダイナミズムを魅力の一つとしてきた。

阿蘇市観光課の秦美保子課長(49)は「どこを区切りに、どこから安心と言えるかは難しい。今しか見られない阿蘇の姿を見て肌で感じてもらいたい。それからが阿蘇の出発点だ」と話す。

「蘇山郷」の永田さんは祖父がつけた旅館名と自らの今の思いを重ね合わせている。「ふるさとは必ず蘇(よみがえ)る」

熊本地震は地元に根付いた家業を窮地に陥れた。困難を乗り越え、新たな一歩を踏み出した人たちの姿を追った。

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