究極の垂直統合 養鶏・飼料から加工まで
農家取り込み、念願果たす
タイ・CPグループ会長 タニン・チャラワノン氏(15)
農家を説得する仕事が待っていた。1970年、米アーバーエーカーからブロイラーのヒナを導入すると決めたが、ヒナを誰かに育ててもらわなければならなかった。米国では飼料会社が農家と契約してヒナを飼育してもらう契約生産方式が普及していた。これをタイにも導入することにした。

CP(チャロン・ポカパン)グループが金融機関との間に立って飼育農家への資金融資を手配し、鶏舎づくりの指導から飼料の供給までする方式だ。病気を防ぐワクチンも提供し、獣医も派遣すると約束した。初めはタイの農家は信じてくれず、私は農家に出向いて説明を繰り返した。
「市場価格にかかわらず、ヒナが大きくなれば前もって決めた価格でCPが買い取る」。バンコクの南東にあるチョンブリ県シラチャの農家らがようやく納得し、75年にブロイラーの大量飼育が始まった。不信の目で見ていた農家だが、最初の一人が契約すると多くの人々が追随した。
CPは73年にヒナをふ化させる施設を設立し、農家に大量のヒナを渡す手はずを整えていた。同時にバンコク近郊のバンナーには飼料工場とブロイラーを解体して食肉に加工する工場も完成させた。同じ大きさに育つブロイラーは機械処理しやすく、自動化という長年の難題を解決した。
飼料原料として欠かせない魚粉も工場を建てて自給した。鶏舎を作る会社、ブロイラーを運ぶ運送会社まで設けた。川上の飼料生産から川下の鶏肉加工まで、すべてのプロセスをタイ国内だけで、しかも自前で手掛ける一貫生産体制ができあがった。
最初の契約農家がシラチャに集中していたため、70年代後半に同地に飼料工場を建設した。これ以降、CPはすべてのプロセスを1つの地域に統合する「究極の垂直統合」を目指してきた。飼料工場、ヒナをふ化させる施設、養鶏場、解体、加工工場を1カ所の地域に集積させる手法だ。
ふ化したヒナを近くの養鶏場に預け、飼料も近くの工場から鶏舎に運ぶ。ブロイラーが大きくなれば養鶏場から解体、加工工場に持ち込み、空揚げやソーセージなどの最終食品に加工する。飼料のトウモロコシの栽培から始まり、食品に加工される最終段階までほぼ1地域で完結できる。
ブロイラー事業ではこうした統合拠点をバンコク近郊、タイ中部、タイ東北部の3カ所に設けている。養豚、エビ養殖でも同じような統合拠点方式を採用した。経済効率だけでなく、食品がどのような経路で食卓に届くかを追跡するトレーサビリティの面でも優れた手法だと考えている。
今では垂直統合はさらに川上、川下に広がっている。トウモロコシの種の改良に着手し、収穫量の多い優良品種を普及させた。同時に自社の食品を販売するためのファストフードや小売事業にも参入した。畑から食卓につながるサプライチェーンをこれほど完璧に自前で築いた企業は例がないだろう。
我々は鶏肉事業の発展の過程でタイの農村に少なからぬ貢献もしてきた。飼料となるトウモロコシを農家から買い取り、養鶏場と工場の設置で新たな雇用を生み出した。そして何より、高価だった鶏肉を農村でも手軽に食べられるようにしたのだ。
(CPグループ会長)