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Amazonダッシュボタン 決め手は価格よりブランド力

(藤元健太郎)

米アマゾン・ドット・コムがモノをインターネットにつなぐIoTのアプローチとして米国で展開している「ダッシュボタン」が、いよいよ注目されている。

日本では未発売だが、このボタンはどこにでも貼れる小さなWi-Fi通信機器になっている。通信可能な場所なら家の中のどこからでもボタンひとつで発注できる。

例えば洗濯機に洗剤のボタンを貼れば、洗剤が切れた時にすぐにボタンを押して注文できる。米国では日用品や食品など、対応ブランド数が160以上に広がった。

そして今回、さらにプログラム可能なボタンまで発売したことが話題になっている。

アマゾンのクラウドと連動して様々なプログラムを組み込んでおける。例えば近くのお弁当屋が「A定食」「B定食」のような発注ボタンを作成。お得意さんに配っておいて、押されれば作り始めるという売り方も可能になるかもしれない。エアコンと扇風機を同時に動かすようなリモコンに使える可能性もある。

メーカーもアイデア次第で、自社製品やサービスを簡単にIoT化できるツールになる可能性を秘めているのだ。

様々なブランドを展開しているメーカーにとっては、とても重要なチャネルが誕生したと言える。かつてはCMを大量に投入し、大手流通の棚の良いところを取るために頑張るのがメーカーのマーケティングだった。

インターネット通販の時代になり、スマホのアマゾンアプリの中で検索して比較される時代になると、価格もますます重要な要素になった。

しかし、ダッシュボタンの場合、消費者はボタンを押すタイミングでは価格を確認していない。つまり安さで選ばれるというよりも、あらためてブランドとして選ばれることになるのだ。

トイレにこのボタンを貼ったとする。トイレットペーパーが無くなれば価格や他社の新製品があるかどうかではなく「すぐにこのブランドで補充しよう」という選択が優先される。自社ブランドのボタンを適切な場所においてもらえるかという、新しい競争に突入したと言えるだろう。

さすがに冷蔵庫の扉に貼れるボタンの数には限りがある。ひとつのジャンルで一度選ばれたボタンを違うブランドに切り替えるスイッチングコストは、スーパーの棚で選んでもらうよりもかなり高くなるかもしれない。新しい囲い込みツールとしての側面がある。

さらに顧客の行動データとしても可能性が広がる。これまで日用品などはスーパーのPOS(販売時点情報管理)などで買われた場所や時間しかデータが取れなかったが、このボタンはその商品が利用される直前や直後に発注ボタンとして押される可能性が高い。

つまり、顧客がどんなタイミングで買いたくなるかまでをアマゾンは行動データとして取得可能になり、メーカーもそれを知りうることになる。「1カ月にボタンを押してもらう回数を増やすためにどうしたらよいか」という指標管理が重要になるかもしれない。

これまでは小売りなどの販売チャネルが重要視されてきたが、IoTの進展は、商品が使われ価値を提供しているその現場そのものにメーカーが近づけるようになることを意味する。

そしてそのシーンにおいて、最も必要とされるブランドになることが求められる。例えば友人が遊びに来た時に、家の洗面所やトイレや冷蔵庫のボタンを見られて自慢できるようなブランドになれるのか。「我が家は20年このボタンだよ」。そんな新しいブランド評価の軸さえ生まれてくるかもしれない。

(D4DR社長)

〔日経MJ2016年7月15日付〕

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