「古地図アプリ」片手にぶらり街歩き 都市の変遷知る
ATR Creative(京都府精華町)が提供するアプリ「こちずぶらり」。日本全国14都市および世界各地の都市の古地図と、それぞれの現在の地図を比較できる。
航空写真や地形図も

全地球測位システム(GPS)を使用し、古地図上での現在位置を表示する。名所には赤い「ランドマーク」ピンが表示されており、タップすると、一部当時の写真と共に説明が読める。同社の高橋徹・共同最高経営責任者(CEO)は「江戸時代や明治時代の地図上を移動するので、タイムスリップしたような感覚を体験できる」と話す。
こちずぶらりのシステムは博物館の学芸員や研究者も活用している。東洋学研究図書館である東洋文庫(東京・文京)は所蔵する元禄年間の地図「江戸大絵図」を基にして、アプリ「大江戸ぶらり」をATR Creativeと共同開発した。
東洋文庫の篠木由喜研究員は「名所絵の企画展を開催する際はこのアプリを使って、描かれた場所の周りに何があったかを研究する」そうだ。街の変遷を知る楽しみもあるという。「電車やバスで移動しながらアプリを見ると、昔あった屋敷を横切っているなどと分かる」
昔の航空写真や地形図を提供するアプリもある。日本地図センター(東京・目黒)が開発した「東京時層地図」は古地図に加え、第2次世界大戦直後から現代まで、東京圏の地域を時代の区切りごとに8世代の航空写真で見られる。写真を画面のタッチ一つで切り替えられる。
同アプリには地形に色をつけて立体的に表示する機能もある。書籍「暗渠マニアック!」の著者の1人、吉村生さんは地下水路を探索する際にこのアプリを利用している。「地形を把握すると、水源や流路の推測がしやすくなる」と語る。
タブレットのiPad版では年代の異なる地図や航空写真を同じ画面上に並べて表示できる。吉村さんはこの機能を利用し「水路が付け替えられた、池が埋められたといった微細な変化」を観察している。お気に入りは杉並区を流れていた桃園川。「地図に改修前の流路や消滅した建物が存在していると胸が高鳴る」と話す。
江戸期の五街道歩く
街だけでなく、江戸時代の交通の要である五街道を歩いてみたい。そんなときにはグラウンド・ベースが開発した「五街道を歩く」シリーズが役に立つ。

「実際に五街道を歩いたとき、印刷物を持って確認するのが大変だった」と同社の中山藤幸取締役はアプリ開発のきっかけを明かす。同氏は街道歩きを趣味としており、五街道を踏破した。その際に収集した資料を基に、旧道の位置から名所の情報までをアプリに盛り込んだ。
地図上に旧道の位置が表示されており、道に迷ってもGPS機能を手掛かりに、元の場所へ戻れる。消滅してしまった名所でも情報の表示があるので、位置を把握できる。
中山氏は「忙しい中、時には街道をゆっくり歩いてみることで自分を見つめ直す時間を持つことができる」と街道歩きの魅力を語る。
旅行の機会が増える夏、古地図アプリを片手に街を歩き、歴史に思いをはせてはいかがだろうか。
(メディア戦略部 結城立浩)
[日本経済新聞夕刊2016年7月14日付]
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