2019年7月24日(水)

「成長の天井」突き破る構造改革を

2016/7/12 3:30
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10日投開票した参院選挙は、自民、公明両党と改憲勢力を合わせた議席数が3分の2を超え、安倍晋三首相は衆参両院で改憲発議の環境を手に入れたことになる。

だが待ってほしい。憲法改正論議の重要性を否定するものではないが、首相には何よりも優先して取り組んでほしい課題がある。この国の将来に希望が持てる構造改革を実現することである。

秋の経済対策が試金石

1つ目は「成長の天井」を突き破ることだ。全都道府県で有効求人倍率が1を上回ったことは、選挙期間中に与党がアベノミクスの成果として強調した点だ。しかし求人がそこまで増え、失業率が3%台そこそこに下がったのに、ゼロ%近傍の経済成長しかできないのが、いまの日本の実力だ。

成長率が上がらないと、税収が低迷して社会保障制度を保てなくなる。将来世代を「惨めな未来」から解き放つことは、政治の責任だ。秋にかけて編成する経済対策が試金石になる。

首相が11日の記者会見で、経済対策のキーワードを「未来への投資」と説明したのは正しい方向だ。ばらまきでは短期的に景気悪化を防げても、需要の先食いだったり、財政悪化のツケが回ったりして、中長期的には消費意欲をそぎかねない。財政投融資の活用も含めて、お金の投資効率を検討し、使い方を工夫してほしい。

消費税増税を2019年10月に延期したことで、政権には3年あまりの猶予がある。この間に、例えば働き方も含めて労働市場改革で成果を上げるべきだ。女性の働きやすさの実現は国がお金をかけるべき分野だ。それ以外にも解雇ルールの明確化、外国人高度人材の就労緩和などが欠かせない。

環太平洋経済連携協定(TPP)の批准は喫緊の課題だし、すべてがインターネットにつながる時代に「ものづくり」の付加価値をどう向上させるかも重要だ。

構造改革の2つ目は年金、医療、介護という社会保障をばらばらでなく、財政と一体的に改革することだ。消費税増税に反対の大合唱が起きるのと対照的に、社会保険料の負担増は制度ごとの対応になり、批判が高まりにくい。

高齢者の利益が政治に反映されやすい「シルバー民主主義」の影響で、与野党とも歳出抑制に腰が引けている。今でも健康保険料の引き上げなどで可処分所得が増えず、消費を抑える傾向が現役世代にみてとれる。25年以降は団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、負担は格段に重くなる。

大切なのは現役世代から高齢者への所得移転を抑えること、高齢者の間で富める人たちから困窮する人たちへの所得移転を進めることだ。そのためにはマイナンバー制度を拡充して所得や資産を把握する仕組みがいる。これらも将来の不確実性を消すという意味で、立派な「未来への投資」だ。

3つ目は少子化に歯止めをかける政策を総動員することだ。保育所を増やして待機児童を減らすのはもちろん、残業時間を減らして子育ての時間を確保する。同一労働同一賃金、最低賃金の引き上げは、経済的な理由で出産をためらうカップルを後押しするだろう。

アベノミクスの金看板である「異次元緩和」には限界が見え始めている。成長の底上げ、税と社会保障の一体改革、少子化対策。3つの構造改革をアベノミクスの新たな主役にできれば、金融政策は脇役に退くことができる。

金融政策は脇役に退く

6月下旬から円高・株安が進んでいる。円売り介入を求める声があるが、通貨安競争への懸念があり、海外の理解を得るのは難しい。上場企業には円ベースの利益が目減りするところが多く、17年3月期が減益になる可能性がある。

市場が大混乱するような緊急時には日銀の応急策も必要になる。企業向けのマイナス金利の貸し出し実現やETF(上場投資信託)買い増しなどだ。ただ同時に「構造改革で日本が成長を取り戻す」という政府の弁が行動を伴っていることが何よりも重要だろう。

円高による輸入コスト低下は非製造業を中心に収益を底上げする。上場企業が業績拡大で積み上げてきた現預金を活用して自社株買いを加速し、投資も増やせば、円高・株安の連鎖も和らぐ。企業の自助努力を促すのは、政府の思い切った姿勢である。

『国家は破綻する』の著者で経済学者のケネス・ロゴフ氏は、最近の新聞投稿で日本経済を「(貧血症のような)無気力(anaemic)」と評した。安倍首相はその指導力で、日本経済の面目躍如を実現してほしい。

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