責任ある社会保障の将来像を示せ(16参院選 政策を問う)
少子高齢化が進むなか、与野党はこぞって少子化対策や高齢者福祉など社会保障の充実を競う。しかし、裏打ちとなる財源確保はなおざりだ。どこかに打ち出の小づちがあるわけではない。参院選では、各党や候補者が社会保障の給付と負担の両面で責任ある主張をするかどうかが、問われる。
求められる財源の確保
政府はこれまで収入以上の支出によって社会保障を広げてきた。足りない分は借金で賄った。その結果が国内総生産(GDP)の2倍を超える債務残高だ。先進国の中で最悪の財政状況であり、そのツケは将来世代に回される。
2012年、このような状態を改善するため当時の民主、自民、公明の3党が「社会保障と税の一体改革」に合意した。消費税率を5%から10%へ引き上げて財源を調達したうえで、社会保障の安定・充実を進めていくという、当然ともいえる考え方だった。
税率は8%まで上がったが、安倍晋三首相はその先の引き上げを2度にわたって延期した。主な政党で反対するところはない。素直に考えれば、予定通りの収入がないのだから、新たな社会保障の充実策は見送るのが筋だろう。
にもかかわらず、各党とも相変わらずの拡大路線だ。予定していた充実策の一つに低所得高齢者への年最大6万円の年金の加算がある。民進党や公明党は早期の実現を公約でうたうが、実施には年5000億円以上の財源が必要だ。具体的にどう工面するのか説明しなければ無責任ではないか。
安倍政権はこの年金加算を前倒しする形で低所得高齢者に3万円の臨時給付金を配りつつある。これも財源が明確でない。高齢者に受けがいいからと口をつぐまず、この是非も議論してほしい。
年金を受け取るのに必要な保険料支払期間を25年から10年に短縮することも、増税を前提にしていた施策だ。ここでも与野党は、支払期間が足りずに年金をもらっていない人の救済につながるとして、前のめりの姿勢を示す。
年金の一部は税金で賄われている。期間の短縮を実施するのにも新たな財源がいる。拙速に実施していいものか。熟考すべきだ。
参院選が始まる前、安倍政権は「一億総活躍社会」を掲げ、保育所や介護施設の増設、保育士や介護士の処遇改善を打ち出した。野党も同様の主張をする。
そのための財源として、景気回復にともなう税収の上振れ分を充てる考えが与党内では浮上している。だが、税収が常に予定より増えるとは限らない。そうした安易な見通しが財政悪化の一因ではなかったか。重要な施策なら、財源の確保へ他の予算を削るといった方策を、選挙戦で聞きたい。
「社会保障と税の一体改革」は、予定通りの増税ができないことで事実上、頓挫した。いま一度練り直しが求められる。
25年には団塊の世代がすべて75歳以上となり、医療や介護の需要が急速に高まると予想される。この状態に耐えうる一体改革を早急に進める必要がある。消費税率は10%でも足りないとみる向きが多い。その先をどうするのか。消費税以外の増税の選択肢も含め、もっと真剣に議論されるべきだ。
給付のスリム化も必要
増税や社会保険料のアップを抑えるには、社会保障給付の抑制も欠かせない。医療にしても介護にしても、一定の年齢以上ならば一律に手厚く給付するのではなく、それぞれの収入などを踏まえ給付を絞り込む必要がある。
寛大ではないが、本当に必要なときにはしっかり機能する制度にスリム化しなければ、超高齢化を乗り切れない。
人口減が進むなかでは、社会保障を維持するためにも、経済の活力を保つためにも、働く人を増やす必要がある。高齢でもできるだけ長く働くことができる環境を整え、合わせて年金を受け取り始める年齢を引き上げたい。
女性が働くよりも専業主婦でいる方が有利な配偶者控除や年金の第3号被保険者制度も、見直していくべきだ。年金受給者を広く優遇する税制の改善も課題だ。
社会保障と税、それに働き方も含めて、総合的にこの国の制度をどう変えていくかという視点が、求められている。
社会保障は国民の関心が最も高い分野だ。政党や候補者は将来を見据えた政策を示してほしい。