AGF、ファンの本音をリアルイベントで「抽出」
味の素ゼネラルフーヅ(AGF)が消費者との交流を目的に開いたファンサイト「AGFラウンジ」がにぎわっている。会員数は1年余りで13万人を超え、アクティブユーザー数は月間約1万人。AGF側からの話題提起だけでなく、会員同士でもコーヒーの話題を振り合って盛り上がる。

「えっ、途中でやめちゃうんですか?」。6月下旬、AGFが開いた「コーヒー好きのコーヒーを愉(たの)しむ会」の、バリスタにドリップを学ぶコーナーでの一幕。雑味を抑えるため、コーヒーが落ちている最中に抽出をやめたことに驚きの声が上がった。
AGFラウンジの会員で、50代主婦の深田由香さんは初めてイベントに参加。間近で見たプロの技に「早速家でも試してみたいです」。豆のブレンドによって味が大きく変わることや、コーヒーの保存方法も学んだ。
サイトを通したアンケートや商品を使ったレシピ提案などは他の食品メーカーも取り組んでいる。AGFラウンジの人気の秘密は、商品の人気投票からリアルイベントまで一貫して「交流」をテーマにしたことだ。
ステップを踏んでコアなファンに育てていく。最も簡単に参加できるのが、好きな商品や飲みたい場面を選択して答える「みんなでふぅ投票」だ。抽選で商品が当たるキャンペーンを兼ねる質問もあり、会員登録のきっかけ作りになっている。
さらに興味を持った消費者向けに、社員の投稿や商品を使ったレシピ提案記事などを用意する。社員の「ゆりっぺ」は5月、担当する濃縮ポーション(水や牛乳などで薄めて飲む)の製品紹介を投稿。顔出しで絵文字混じりのページは芸能人のブログさながら。
投稿には「混ぜるだけじゃなくて何かにかけてもおいしいですよね」など会員からのコメントが集まり、ゆりっぺも返信。サイトを開設時から愛用する40代主婦、田添明美さんは「コメントに社員さんやビーン太くん(同社キャラクター)から頻繁に返事があって、見てくれているんだなと親近感があります」。
今年4月に開設した掲示板「みんなでふぅトーク」では会員同士の交流も生まれている。「当初は運営側がお題を提供していくつもりだった」(同社)が、開設から2カ月ほどで会員が自発的に200件以上のテーマを投稿するようになった。
「牛乳や砂糖以外にコーヒーに入れたらおいしいものは?」。会員が独自に投稿したお題に、「はったい粉(麦こがし)。香ばしさアップです」など、意外なレシピも共有して盛り上がる。
一方で厳しい指摘も寄せられる。インスタントコーヒーなどの内容量改定の際に「値段は変わらないけど量は減ったわね」。社員が直接、消費者の声に触れる貴重な場所になっている。
そして、最も力を入れるのが冒頭のリアルイベントだ。「司会から参加者への一方通行になってしまうのを避ける」(家庭用企画部広告グループの天川奈乃専任課長)ため、1回の参加人数は10~30人程度に絞る。倍率が約10倍に達するイベントもあるという。
「何万人にウェブ調査をかけても、本音は聞けない」「これまでの情報発信は一方的な押しつけではなかったか」。AGFラウンジを作った背景には、これまでの情報発信への問題意識がある。
その一つの答えが、消費者との交流を密にし、よりコアなファンに育てることだ。アクティブユーザー数1割を達成しつつ、今年度中に会員を20万人に増やす。集めた声をどう商品開発や販促に生かすかも今後の課題だ。
(伊神賢人)
[日経MJ2016年6月29日付]