寛容な社会がテロを防ぐ
大量殺人をたびたび経験してきた米国民も衝撃を受けた被害の大きさである。過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う男が米犯罪史上、最多の被害者を出す銃乱射事件を起こした。どうすれば罪なき人々をテロ行為から守れるだろうか。
事件の容疑者はISに親近感を持ち、性的差別感情も相まって、ゲイ(男性同性愛者)が集うナイトクラブを襲撃したようだ。
ISは一時の勢いを失いつつあるようだが、その結果、むしろ先鋭化し、世界各地でテロを頻発させている。今回の事件がISの直接の指示による組織的犯罪かどうかはわからないが、少なくとも触発はされたのだろう。
重要なのは冷静な対処である。11月の米大統領選で共和党の指名候補になることが確実な実業家ドナルド・トランプ氏はイスラム教徒の米入国を禁止すべきだと改めて訴えた。容疑者の両親はアフガニスタン出身だが、本人は米国民であり、入国禁止で事件が防げたわけではない。
イスラム教徒でも過激派はごく少数だ。宗教対立をあおれば、社会への疎外感から報復へと走るテロリスト予備軍はかえって増えるだろう。
被害者が性的少数者(LGBT)だったことを考慮しても、人種、宗教、思想信条、性的志向などにおいて多様性を認める寛容な社会づくりこそが重要だ。恐怖で世界を支配しようとすることがいかに不毛であるかを時間をかけて説く以外に道はない。
米国は銃が簡単に入手できる社会だ。それが乱射の誘因だったかどうかは検証すべきだ。容疑者にはかねて治安当局が関心を寄せていた。危うい人物まで銃が手に入るのは言語道断だ。
日本でも5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の際、厳重な警備体制が敷かれた。安心感は高まったが、息苦しくもあった。テロのない世界をつくるため、わたしたちに何ができるかを一緒に考えたい。
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