涼んで楽しむ♪ 夏に行きたい観光ダム、ベスト10

観光の穴場、自然に憩う
緑が濃さを増している。今年の夏は猛暑の予想だ。夏休みを前に避暑や森林浴を計画する時、ダムというキーワードを加えてはいかがだろう。見るだけではない「観光ダム」が全国各地に整備されつつある。入場無料が基本なのもうれしい。水や電気について学べる施設や周辺のレジャーの充実度、交通アクセスの良さなどの観点から親子で涼んで楽しめる魅力的なダムを専門家に選んでもらった。
ダムには(1)水道水を供給する水がめ(2)台風や大雨による洪水を防ぐ(3)川の水量を調整して環境を健全に保つ(4)水力発電――の主に4つの役割がある。本来の役割に加えて近年期待されているのが、自然に親しみレジャーもできる観光施設としての役割だ。各地の自治体はダムを利用した観光誘致に力を入れている。
ダムの代名詞ともいえる黒部を抑えて1位になったのは宮ケ瀬ダム。2001年に完成したこのダムは、観光を意識して見せるダムとして作られた。上位に並んだダムはいずれも「行きたくなる要素」が詰まっている。大自然の中に建つ巨大構造物は一つとして同じものはない。楽しむ要素を加えた観光ダム。その裾野が広がっている。
観光放流は毎秒30トン、迫力満点

都心から約50キロメートルという近さが魅力。定期的に観光放流している数少ないダムで、その水量は毎秒30トンと黒部ダムの2倍以上。25メートルプールが12秒で満水になる量という。頭上70メートルからの放流は迫力満点だ。放流は4月から11月の毎週水曜日と毎月第2日曜日、第2第4金曜日に行う。11時からと14時からの2回ある。
「年間159万人の観光客の多さは断トツ」(市岡正幸さん)、「放流に加えて施設や公園も充実している」(酒井英治さん)と評価を集めた。ダムを自由に上下できるエレベーター(無料)を備え、「ダムと公園を結ぶロードトレインやダムの急斜面を移動できるインクライン(ケーブルカー)など有料の乗り物も楽しめる」(島袋芙貴乃さん)。取水や発電の仕組みを体験しながら学べる資料館やイベントも充実。隣接する公園には迷路やスライダーなどの遊具、藍染めや紙すきが体験できる施設があり「親子で楽しめる要素が全てそろっている」(神馬シンさん)。
(1)156メートル(2)375メートル(3)国土交通省(4)小田急線本厚木駅からバスで60分(5)046・288・3600
巨大アーチ、自然との対比が圧巻

巨大な構造物が描く美しいアーチ、「険しい自然と人工物の対比」(萩原雅紀さん)が圧巻だ。長野と富山からの2ルートがあり、電気で走るトロリーバスやケーブルカーなど乗り物も堪能できる。「黒部立山アルペンルート観光として楽しめる」(河村亮太さん)。関西の電力需要を賄うため建設し、171人が殉職した。難工事の様子は小説と映画「黒部の太陽」でも描かれた。「電気を手に入れるためいかに多大な犠牲を払ってきたのかを考えさせられる」(井上よしひささん)。6月26日から10月15日までは観光放水がある。ダム湖には遊覧船も。名物の「黒部ダムカレー」はレストハウスのほか長野県大町市内で食べられる。
(1)186メートル(2)492メートル(3)関西電力(4)JR大糸線信濃大町駅から扇沢までバスで40分、関電トンネルトロリーバスで16分(5)0261・22・0804
重厚な「軍艦」 道の駅と一体整備

高くはないが長い。重厚な作りで「軍艦ダム」の異名がある近畿最大級のダム。隣にある道の駅には温泉や温水プール、レストランやバーベキュー広場などがあり、「家族で一日中楽しめる」(島袋さん)。ダムと道の駅を一体整備した景観は、日本建築学会賞を受賞するなど「デザインが素晴らしく、家族でもデートでもいい」(夜雀さん)。ダムの下にある歩行者専用のループ橋も人気だ。「ダムの内部を見学できるのも魅力」(宮島咲さん)。「京都の洪水防御に活躍した」(中村靖治さん)というダム本来の機能面でも高い評価を得た。ダムカレーもある。
(1)67メートル(2)438メートル(3)水資源機構(4)JR山陰本線日吉駅からバスで10分(5)0771・72・0171
正面に架かる橋、放水のしぶき浴びて

鉄道駅に名前が付いた珍しいダム。「鉄道から見るダムの景色は列車の旅を盛り上げてくれる」(大平伸予さん)。ダム湖ではカヌー体験ができアウトドア派も楽しめる。「資料館が充実していて子供が楽しめるアクティビティーが多い」(NOW2000さん)。ダムの正面に架かる「しぶき橋」では、放水時に水しぶきを浴びながらダムを眺めることができる。イベントでライトアップされた姿もいい。
(1)109メートル(2)308メートル(3)国土交通省(4)大井川鉄道長島ダム駅下車(5)0547・59・1021
周囲の景観、遊覧船で一望

福島県と新潟県にまたがる。山々に囲まれた四季折々の景観を、ダム湖の遊覧船から望める。尾瀬観光の入り口に位置し「ハイキングや電力館も楽しめる」(河村さん)。一般水力の発電能力は日本一。三島由紀夫の「沈める滝」や真保裕一「ホワイトアウト」などの小説の舞台となった。
(1)157メートル(2)480メートル(3)Jパワー(電源開発)(4)関越自動車道「小出IC」から車で50分(5)025・795・2059
戦後土木技術の原点といえるダムで「展示館も充実」(神馬さん)。取水口がレトロで人気。湖畔からの景観も見事だ。(1)155メートル(2)293メートル(3)Jパワー(4)東名高速「浜松IC」から車で90分(5)053・965・1350
「札幌市内にありアクセスが良い」(三橋さゆりさん)。7月には放流を間近で見られる見学デーも。秋は紅葉が美しい。(1)102メートル(2)305メートル(3)国土交通省(4)豊平峡温泉から徒歩30分と電気バス10分(5)011・583・8110
7月に近場の湯西川ダムなど4ダム見学会がある。(1)140メートル(2)320メートル(3)国土交通省(4)野岩鉄道鬼怒川温泉駅からバスで30分(5)028・661・1341
春は桜、秋は紅葉。資料館も充実している。(1)149メートル(2)353メートル(3)東京都(4)JR青梅線奥多摩駅からバスで20分(5)0428・86・2211
日本最古のコンクリートダム。(1)33メートル(2)110メートル(3)神戸市(4)新幹線新神戸駅徒歩40分(5)078・322・5903
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カードやカレー 楽しみ方広がる

ダムの楽しみ方も広がってきた。国土交通省などが作成したダムカードには写真付きで型式や特徴が書いてあり、500以上のダムで入手できる。ご飯をダム、ルーをダム湖に見立てたダムカレーも各地で登場。カードやカレー目当てにダムを巡る親子が増えている。ダム人気が高まり、宮ケ瀬ダムの観光放流の見学者は13年間で4.5倍に増えた。
漫画やイベントもけん引する。井上よしひささんの「ダムマンガ」(「月刊ヤングキングアワーズGH」に連載)はダム好きな女子高生が各地のダムを巡り、役割や魅力を伝える。「月刊ダム日本」を発行する日本ダム協会は「ダムマイスター」を認定。イベントなどでダムの魅力を発信している。
7月21日から31日は「森と湖に親しむ旬間」。多くのダムで見学会や花火大会を楽しめる。ダムを知るいい機会になりそうだ。
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表の見方 数字は選者の評価を点数化。ダム名(所在地)(1)高さ(2)長さ(3)事業者(4)アクセス(5)問い合わせ先電話番号。2~5位の写真は各事業者提供。
調査の方法 専門家の協力で全国35のダムをリスト化。(1)ダムの魅力と景観(2)楽しめる要素(3)アクセス――の観点から選んでもらった。選者は次の通り(敬称略、五十音順)。
市岡正幸(KNT-CTホールディングス国内旅行部)▽井上よしひさ(漫画家)▽大平伸予(阪急交通社)▽河村亮太(日本旅行総研)▽酒井英治(一般財団法人日本ダム協会常務理事)▽島袋芙貴乃(いこーよ編集部)▽神馬シン(ダムマイスター)▽NOW2000(ダムマイスター)▽中村靖治(ダム工学会ダム技術史研究部会長)▽萩原雅紀(ダム写真家)▽三橋さゆり(国土交通省河川環境評価分析官)▽宮島咲(ダムライター)▽夜雀(ダムマイスター)
[日経プラスワン2016年6月11日付]
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