2019年8月22日(木)

成長と財政再建の両立捨てるな

2016/6/1 3:30
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安倍晋三首相が2017年4月に予定していた消費税率の8%から10%への引き上げ時期について、19年10月へと2年半延期する方針を与党幹部に伝えた。

消費税は年金や医療、介護、子育てといった社会保障を支える貴重な安定財源だ。その引き上げを再び延期するのは極めて残念だ。

現役世代や高齢者が薄く広く負担を分かち合うのが消費税である。見逃せないのは、増税の再延期で巨額の財政赤字を放置し、子や孫の世代にツケを回すことだ。

消費増税延期は残念

日本の借金(債務)は国内総生産(GDP)の2倍を超え、先進国で最悪の財政状態だ。その立て直しも増税再延期で遠のく。

いまは日銀による異次元の金融緩和が、国債の利回りを大きく押し下げている。増税の再延期で直ちに国債利回りが急上昇するとは考えにくい。

しかし当面、日本が財政破綻する確率が低いとしても、それが現実になった場合の日本経済や世界経済への影響は想像を超える。そのリスクが確実に高まったのではないか、と心配だ。

仮に日本の国債の格付けが下がると、日本企業が社債発行などで資金を調達する費用は増えてしまう。

消費税は12年に、自民、公明両党と当時の民主党が15年10月に8%から10%に上げると決めた。

首相はその後、10%への引き上げ時期を17年4月に延期することを決断し、リーマン・ショックや大震災のような事態が起きなければ「再び延期することはない」と明言していた。

首相は世界経済の危機回避を増税再延期の理由に挙げている。米国が再利上げを視野に入れ、中国経済の失速懸念が後退したいま、この説明には無理がある。

たしかに足元の個人消費は精彩を欠く。10%への消費増税で景気が腰折れし、物価が持続的に下落するデフレからの脱却が遠のきかねない、との懸念は理解できる。

増税は増税として実施しつつ、景気の落ち込みをカバーする別の手を打つこともできたはずだ。

消費低迷の一因は、若年世代を中心にした将来不安とされる。また、安倍政権は社会保障の抜本的な効率化に手をつけていない。その結果、年金や医療の保険料負担が増え続け、可処分所得が伸び悩んでいる影響もある。

財政赤字の主因である社会保障費の膨張を思い切って抑える改革をしないまま増税を見送ることが最適解でないのは、こうした背景があるからだ。

消費税が10%になる時点で政府は、約1.3兆円分の社会保障充実策を実施する予定だった。増税を見送り、財源のメドがないまま充実策を実施するなら無責任だ。

20年度に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にする目標を堅持するというが、どうやって達成するのか。

政府の試算では17年4月に10%への消費増税を実施し、さらに名目成長率が3%程度の高成長が実現しても、20年度の基礎的収支は6.5兆円の赤字が見込まれていた。政府は目標達成に必要な歳出削減や消費税以外の増収策などの財源を具体的に示すべきだ。

日本経済の実力である潜在成長率はわずか0.2~0.3%程度とされる。問われるのは、増税延期で時間稼ぎをしている間に、潜在成長率を引き上げる構造改革を断行できるかどうかだ。

構造改革を断行せよ

政府・与党内では、消費増税の延期に加え、大型の補正予算案を編成し景気対策を講じるべきだとの声がある。いまはそんな政策対応が必要な経済状況ではない。

カンフル剤で目先の成長率を押し上げても、効果はすぐにはげ落ちる。規制改革で日本経済の体質を抜本的に強化できないと、わずかなショックで頻繁にマイナス成長に陥る事態を繰り返すだけだ。

政府・与党は通常国会で、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認や、雇用の規制改革を盛った労働基準法改正案の成立を見送った。「経済最優先」の本気度を疑いたくなる。

人口が減り続けるなか、女性や高齢者、若者、外国人がもっと活躍できるような働き方改革を果断に実行すべきだ。

大企業だけでなく中堅・中小企業の企業統治もさらに強化し、新陳代謝を進める。そんな改革は待ったなしだ。社会保障の抜本改革もこれ以上先送りできない。

日本経済の最大の課題は、成長力強化と財政再建の両立だ。日本はその難題から今度こそ逃げてはいけない。

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