春秋

2016/5/10 3:30
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NHK「新日本紀行」や「きょうの料理」のテーマ、さらにはアニメ「ジャングル大帝」など冨田勲さんの曲には誰の耳にもなじむ親しみやすさがある。そこへ前衛の一さじも加わり、旋律は長く心に残った。テレビを生活に定着させる面でも一役買ったと言っていい。

▼1970年代、米国から苦心の末にシンセサイザーを輸入した後は、未知の機器との格闘を制し、革新的曲作りに突き進んだ。「月の光」「展覧会の絵」「惑星」などの作品群はスタジオで膨大な時間と手間をかけ編み上げられた。映画監督のフランシス・コッポラさんら多くの芸術家にインスピレーションを授けている。

▼音響の極限に挑むかのように国内外で「サウンドクラウド」と呼ばれるイベントを仕掛けたほか、ボーカル音源を持つキャラ、初音ミクとの「共演」も果たしている。音楽の最先端に身を置き続け世を去った。対談などで「今は安価で高性能な機器がたくさんある」と恵まれた境遇の後進に奮起を促すことも忘れなかった。

▼「…音の色合いの出し方にしても、全く際限がない。したがって自分自身がさらけ出てしまうこわさもある…」。冨田さんはアルバム「月の光」で電子音楽への思いをこう書いている。道を開き、井戸を掘った第一人者にも未来へのおののきがあった。AI(人工知能)の技術の前にすくみがちな我々への一灯とも思える。

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