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山田届いた「右」 賭けのタッチ どんぴしゃ

2016/9/15 3:30
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13日の競泳男子50メートル自由形(運動機能障害S9)で銅メダルを獲得した山田拓朗(NTTドコモ)は、左肘から先がないアスリートだ。13歳の時から4大会連続パラリンピックに出場し、初のメダルを引き寄せたレースには、隻腕独特のタッチの技術の粋が詰まっている。

競泳男子50メートル自由形でスタートする山田=寺沢将幸撮影

競泳男子50メートル自由形でスタートする山田=寺沢将幸撮影

健常者の自由形であれば、最後のタッチは右手でも左手でも、壁に近い方の手を伸ばして触れば事足りる。だが山田の場合は必ず最後は右手を伸ばさないといけない。

しかも主戦場は水中のスプリンターを争う50メートル自由形。猛スピードで手をかきながらもレース終盤、頭の中では冷静にコンピューターをフル回転。「このペースで今この位置なら、ストロークのテンポをここまで上げれば(下げれば)最後は右手が先に着く」という計算をして右手を伸ばす。

13日午前の予選で山田は26秒20をたたき出した。4年前のロンドン大会決勝で出した日本記録を0秒02上回る好記録。だが、予選3位のスペイン選手のタイムから遅れること0秒05の4位。1位の英国選手は25秒99だった。このままでは表彰台は危ないかもしれない。

実は予選は最後のタッチがスムーズにいっていない。今年から山田は、タイムロスにつながる息継ぎを、従来の2回から1回にするワンブレスに挑戦している。その1回の呼吸のタイミングを、予選ではスタートから35メートルの位置にしたら、「最後のタッチでわざとストロークのテンポを落として無理やり合わせて」のフィニッシュだった。

賭けに出た。夜の決勝では呼吸のタイミングを、「35メートルプラス1ストローク」と、よりゴールに近い地点に変えた。「ぶっつけ本番だったけど、思い切って少し変えてみた」

5月から始めた、義手を左手にはめて行う筋力トレーニングで、肘先がないゆえに動きが悪かった左肩周辺もたくましさと柔軟性を増し、指導する高城直基コーチも「明らかに泳ぎは速くなっている」と自信があった。だから予選後、高城コーチは「泳ぎはスピードが出ているので気にせずいつも通りに。スタートとゴールタッチをしっかり合わせることがまず第一」と助言している。

すると決勝は、「少し流れたり、詰まったりするタッチが、今回はわりとぴたり、いい距離感で入れた」と右手がどんぴしゃで壁に触れた。「いい記録が出たかな」との予感通り、さらに日本記録を更新する26秒00。目標の25秒台にはわずかに及ばなかったが、山田は「勝因は最後のタッチが合ったことだと思う」と分析した。

ただ2位のオーストラリア選手との差はわずか0秒01、優勝した英国選手との差も0秒05の僅差だった。あれだけのタッチができても、わずかに届かなかった世界との差。だが「そこが自分に足りないところだが、逆に今回金メダルをとっちゃったら油断していたと思う。今このタイミングで一番いいタイム、一番いい順位だった。今後に向けて頑張ろうというモチベーションになった」と前向きだ。

東京大会に向けての4年。あれこれテンポを調整することなく突き進み、最後は右手でぴたりと金メダルに触れてみせる。

(摂待卓)

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