未必のマクベス 早瀬耕著
構成の妙、究極の初恋小説

気持ちのいい文章だ。どこまでも滑らかで、どこか甘く、さらに懐かしさを秘めている。忘れていたことをどんどん思い出す。小説を読むということは文章を読むことなのだ、と改めて感じたりする。
こういう小説はストーリーを紹介しても、あるいは犯罪小説、ハードボイルドというジャンル分類をしてもさして意味がない。では、どういうふうに紹介すべきか。
本書の語り手である38歳の中井優一が、高校時代を思い出すくだりがある。思い出すのは鍋島冬香という同級生だ。特に何かあったわけではない。だがその後、彼女のことを忘れた日が一度もない、というから尋常ではない。
これは本書の冒頭近くに出てくる回顧だが、ここまで書かれるとこの女性が本書に登場してくるのは必然だ。
問題はどういうかたちで、いつ登場してくるかだが、実に意外なかたちで登場してくる。この構成のうまさが群を抜いている。
話の展開を、特に後半を、乱暴すぎると批判する向きもあるかもしれないが、なあに、気にすることはない。これは究極の初恋小説だ。
★★★★
(文芸評論家 北上次郎)
[日本経済新聞夕刊2014年10月22日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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