鬼はもとより 青山文平著
藩札テーマ、バブルへの批判

大変な作品が現れたものである。敢(あ)えて誤解を承知でいえば、青山文平は、この一巻でまったくタイプの違った平成の藤沢周平となった。
主人公・奥脇抄一郎は、某藩の藩札(その藩内のみで通用する貨幣の代用品)掛だった。だが、宝暦の飢饉(ききん)の際、藩札の乱発によって事態を収束しようという上役と、その娘婿に収まるはずの親友をふり切り、版木を持って出奔。結果、藩は改易となった。
そして、いまでは江戸で万年青(おもと)を売って糊口(ここう)をしのいでいる。が、その存在は伝説的となり、さまざまな藩から藩札に関する知恵袋として呼ばれるようになる。
この小説の最大の眼目は、藩札をテーマとしている点である。この本当は存在しない金(かね)は、戦後の高度経済成長期からバブル全盛期への痛烈な批判であろう。さらに抄一郎は諸藩の相談に乗っていく過程で、この問題に対する覚悟と仕法を模索していくが、その仕法に対する173頁(ページ)にある"学び"には、現在のアベノミクスに対する微妙な視線すら感じられるではないか。
結末も単純ではない。全企業人、サラリーマン必携必読の書といえよう。
★★★★★
(文芸評論家 縄田一男)
[日本経済新聞夕刊2014年10月8日付]★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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