笹の舟で海をわたる 角田光代著 引き込まれる「普通の人生」

2014/10/2付
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ラスト近く、左織が知人に「あなたは思いどおりの人生を送ることができた?」と尋ねる場面がある。そう質問するということは、なんだかなあと彼女が思っているからにほかならない。いま、左織は64歳。シニア向けマンションで一人暮らしである。では、左織の人生はどんな人生であったのか。回想がどんどん挿入されていく。

それはごくごく普通の人の半生だが、幾分変わっているのは、左織が22歳のときに幼なじみの風美子と再会したら、彼女が左織の夫温彦の弟潤司と結婚するので、左織と風美子が義理の姉妹になってしまうこと。それから40年以上も2人の交流が続いていくからこれは女同士の友情物語でもある。

友人と義理の姉妹になるというのは少しだけ異色だが、あとはどこにでもあるような人生といっていい。成長したら子供たちは家を出ていき、完全に不和かと思うと、何かの折りには集まったりするのも私たちもほぼ同じ。そうなのである。ここにあるのは普通の人の、普通の人生だが、それは同時に私たちの人生でもあるということだ。だから、この物語にどんどん引き込まれていく。

★★★★★

(文芸評論家 北上次郎)

[日本経済新聞夕刊2014年10月1日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

笹の舟で海をわたる

著者:角田 光代
出版:毎日新聞社
価格:1,728円(税込み)

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