国策通信社『同盟』の興亡 鳥居英晴著 戦時メディアの責任 正面から問う

2014/9/29付
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八月に朝日新聞社が慰安婦報道の誤りを認めて以来、「国益とジャーナリズム」をめぐる激しい論戦が続いている。戦時中の記憶が争点である以上、それは戦時メディアの責任問題とも連続している。

(花伝社・5000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

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メディア史において、一九四五年八月一五日は戦中から戦後への画期ではない。戦時期のメディアは敗戦後も一日の中断もなくニュースを流し続けた。こうしたメディア史の連続性において、唯一の例外が同盟通信社である。敗戦時、中国に一〇〇〇名、南方に七〇〇名の人員を擁し、空前絶後の影響力を誇った「国策通信社」は、GHQにより業務を停止され、共同通信社と時事通信社に分割された。

戦後も存続した新聞社やNHKの社史が自らの戦争責任問題を無視できなかったのに対して、組織が解体されたため『通信社史』(通信社史刊行会・一九五八年)にそうした反省の視点は乏しかった。こうして「正史」が不問にした戦争責任に真正面から向き合った本書の意義は大きい。特に、滞日外国人特派員の回想、朝鮮人・中国人社員の記録が詳しく紹介され、国益が多角的に検討されている。第一部「通信社の揺籃(ようらん)時代」から始まる八百頁(ページ)に圧倒されるが、千頁を超える「正史」の国益優先論と対峙するためには不可欠な分量だ。

同盟通信社は日本の総力戦体制構築を体現した組織である。一九三一年の満州事変を契機に、「ナショナル・ニュース・エージェンシー」設立が政府内で計画され、三六年に政府の強引な介入で新聞聯合(れんごう)と電通通信部が合併されて成立する。巨額の政府助成金が投入され、その情報活動は外務省や軍部と一体化していた。三七年の日中戦争勃発とともに国際宣伝戦の最前線に立ち、情報工作のため日系アメリカ人や語学に堪能な左翼インテリを能力主義で続々と登用した。この国策機関の躍動感の秘密は、そこに由来している。他方で、欧米向け報道責任者の「デッチ上げ」体験談なども実名で紹介されている。戦局悪化とともに大本営発表が少なくなると、海外放送への対抗上やむなく、「こっちも勝ったというニュースをデッチ上げてそれを放送していた」。誰に強制されなくても、虚報が生まれるシステムは情報組織に内在している。それは戦時下に限ったことでもない。

対外発信の強化は、今日ますます切実となっている。その対策を考える上で、同盟通信社の「敗戦」から掬(すく)い取るべき教訓はあまりに多い。

(京都大学准教授 佐藤 卓己)

[日本経済新聞朝刊2014年9月28日付]

国策通信社「同盟」の興亡 通信記者と戦争

著者:鳥居 英晴
出版:花伝社
価格:5,400円(税込み)

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