春秋

2014/9/24付
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「君からのメールがなくていまこころ〔………〕より暗し」(笹公人)。さて、カッコのなかにはどんな言葉が入るでしょう。歌人の栗木京子さんが若い人向けに書いた著書「短歌をつくろう」で、こんな練習問題を出している。比喩の面白さを分かってもらうためだ。

▼答えは「平安京の闇」。きらびやかな都の底知れない暗さが「メールの来ない絶望感を示すにはうってつけ」と栗木さんは感心しきりなのだが、闇のなか、わずかな明かりの下でしたためたのだろうか。平安期の遺跡で出土した土器片に残る平仮名が、字の稽古で古今和歌集の一首を写したものだという新説が発表された。

▼切れ切れでこれまで解読できなかった字の連なりは、詠(よ)み人知らずの「幾世しもあらじ我が身をなぞもかく海人(あま)の刈る藻に思ひ乱るる」と読めるそうだ。意味は「ずっとは生きられぬ私なのになぜ漁師が刈る海藻のように心が乱れるのだろう」。なにゆえの心の乱れか、平安人はそれを海藻のゆらめきにたとえたのである。

▼もちろん土器片をどんなに眺めたって素人にはチンプンカンプン。うまい下手も分かりはしない。で、思い出したことがある。落語家、柳家小三治師が「ひじきをばらまいたような字」と言って笑わせた高座である。どんな字をたとえたかはご想像に任せるとしても、土器片の墨跡がひじきに見えてくる我が身が情けない。

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