原発の選別に備えた体制づくりを急げ
電力の供給をどこまで原子力発電に頼るのか。この問いは原発をどう減らしていくのかと表と裏の関係にある。
電力会社は新規制基準の下でどの原発を残し、どれを廃炉にするのか決めなければならない。再稼働の準備と並行し、役割を終えた原発を円滑に廃炉にする体制を国全体で整えることが重要だ。
新規制基準は原発の運転期間を40年と定めた。条件を満たせば最長で20年間延長できる。2016年7月時点で運転期間が40年を超える原発は関西電力美浜原発1、2号機、九州電力玄海1号機など7基ある。再稼働を希望するなら、15年7月までに原子力規制委員会に申請しなければならない。
ただし、古い原発の場合、新規制基準を満たすには、安全確保のための改修工事に多額の投資が必要になるとみられている。
安全性を高めて再稼働を目指すのか、廃炉にするのかは電力会社が判断すべきことだ。再稼働させても、安全対策の費用に比べて得られる収益が少ないなら廃炉を選ぶ判断も出てくるだろう。
電力会社が一斉に廃炉に踏み出す可能性がある。だが、廃炉を後押しする環境が整っていない。
まず、廃炉の費用だ。電力会社は廃炉に備えた費用を積み立てているが、施設の解体後に出る放射性廃棄物の処分費用などが加われば見込みより膨らむ恐れがある。
廃炉費用は電気料金に上乗せし消費者が負担する。上振れは電気料金を押し上げる要因となる。不足する費用を、だれが、どう負担するのか考えなければならない。
原発は廃炉が決まると資産価値がなくなる。電力会社はその分を特別損失として計上しなければならない。財務悪化に直面する電力会社には負担が重い。
廃炉を選びたくてもできず、老朽原発が放置されるようでは安全上も問題だ。政府は昨年、損失を一度でなく、複数年に分けて処理できるようにしたが、こうした手立ての拡充も必要ではないか。
解体後の廃棄物の処分方法も決まっていない。廃炉は数十年かかる作業だ。人材やノウハウを共有し、作業を効率的に進める仕組みを考えるべきだ。
原発は選別の時代に入った。規制委は九州電力川内原発1、2号機について、新規制基準を満たすと結論づけた。原発の再稼働に理解を得るためにも、廃炉への道筋を整えることが欠かせない。