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敗戦とハリウッド 北村洋著

日本の「アメリカ化」担った映画

本書は、占領政策の一環としてのアメリカ映画利用について、それを上からの一方的な押し付けとしてではなく、受容した側(当時の日本人観客)との相互作用と位置付けた上で、アメリカ映画が戦後日本のアメリカナイゼーションに果たした役割を検証した労作である。そのため、米国立公文書館等に保管されている膨大な占領期の第一次資料の調査のみならず、当時の日本でアメリカ映画配給・上映に関わった関係者へのインタビューを行ない、映画雑誌の投稿記事を利用して草の根でアメリカ映画を受容し、"アメリカ"を自らの一部として内在化させていった映画ファンたちの言説に光を当てている。

筆者は個人的には著者と面識はないが、本書の出版を15年ほど前からずっと待っていた。なぜなら、筆者が『アメリカ映画と占領政策』(京都大学学術出版会、2002)の執筆過程で取材した関係者の多くから、その後「アメリカ在住の研究者からあなたと同じテーマで取材を受けたよ」と電話や手紙を頂いていたからだ。改めて本書を手に取り、インタビューした関係者44名のリストを観(み)ると、よくぞこれだけ多くの関係者を探し出したものだ、とその努力に改めて敬意を表したい。

本書の白眉は最後の二章だろう。第7章では映画を用いた啓蒙教育というスタンスのGHQと、文化人を用いてアメリカ映画の権威づけを行ないたいセントラル社との思惑の一致から誕生したアメリカ映画文化協会による、全国規模の普及活動を、第8章ではセントラル社から雑誌『映画之友』編集長に転職した淀川長治による「友の会」の活動を扱っている。

アメリカ映画の送り手(GHQ/セントラル社)と受け手(日本の観客)との間を仲介した日本の文化人たちの動向と、受け身の姿勢ではなく積極的に学ぼうという態度で受容した映画ファンたちの実相を探ることこそが、アメリカ映画を通じてのアメリカナイゼーションが日米の相互作用だったという仮説を検証する鍵だからだ。

欲を言えば、一握りの米国人上層部の下、GHQに雇われて検閲を行ない、セントラル社社員として働いた、英語コミュニケーション能力の高いインテリ日本人たちのメンタリティにもっと切り込めなかったか。

映画専門書では作品名を初公開時の表記とするのが鉄則だが、本書ではDVD発売タイトルに依拠するなど、一般読者向けの編集で、読者層を広げたい出版社側の意向を感じる。

(早稲田大学客員教授 谷川 建司)

[日本経済新聞朝刊2014年9月21日付]

敗戦とハリウッド―占領下日本の文化再建―

著者:北村 洋
出版:名古屋大学出版会
価格:5,184円(税込み)

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