経済の長期停滞論を乗り越えて

2014/9/15付
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米欧を中心に経済の長期停滞論が広がりを見せている。リーマン・ショックから6年たつのに経済回復の勢いが弱いためだ。低成長の背後には単なる景気循環だけでは説明できない構造要因があるのではないか、という問題意識に基づく。

歴史的に見れば大きな金融危機後は経済の回復が遅れがちであり、経済停滞の問題が過大にとらえられている可能性はある。状況は国によっても異なる。だが、日本の経済再生にとって参考になる議論も多い。成長力を高めるための処方箋づくりに生かしたい。

潜在成長力低下に警鐘

長期停滞論がさかんな米国では金融危機の傷こそ癒えてきたものの、経済拡大の勢いは過去の景気回復期に比べて鈍い。中間層の所得もなかなか伸びない。欧州ユーロ圏の経済は低空飛行を続けており、物価上昇率はゼロに近づきつつある。日本型の長期デフレに陥るとの懸念も出てきた。

米欧ともに積極的な金融緩和を進め、政策金利はほぼゼロまで下がっているのに、企業の設備投資などには思うほどの効果が出ていない。

長期停滞論の火付け役でもあるサマーズ米ハーバード大教授は、米国の需要が潜在力を下回る状態が続いていることを問題視し、インフラ投資などで政府が前向きな役割を果たすべきだと主張する。最近は、潜在成長力そのものの低下にも警鐘を鳴らし、人や資本の生産性を構造改革によって引き上げる必要性に言及している。

イノベーションが成長に貢献する力が低下しているとの議論も出ている。電気やエンジンなど19世紀までの発明に比べれば、インターネットを核とした情報革命が生産性向上に与える影響は大きくないといった見方だ。

格差の拡大が成長を抑えているという声も高まっている。おカネ持ちは所得のうち消費に回す比率が少ないので、富が高所得者層に集中すると、消費は伸びにくくなるというものだ。一方、貧困により十分な教育や医療を受けられない人が増えた結果、労働生産性が低下しているという見方もある。

このほか、国の債務膨張や少子高齢化が経済成長にマイナスに働いているという指摘も目立つ。

欧州の経済低迷は、金融・債務危機の後遺症がまだ消えていないことが背景にある。金融システムがなお不安定で、企業におカネが回りにくい状態が続く。若者を中心とした長期失業が、労働者の能力低下を通じて生産性の悪化に結びついているという指摘も多い。

こうした米欧の長期停滞を巡る議論や経済動向を日本はどう見るべきだろうか。

まず教訓として再確認すべきなのは、経済・社会に大きな後遺症を残す金融危機を起こしてはならないということだ。

日本の長期停滞のきっかけも金融危機だったので当然のことではあるが、決して過去の話とは言い切れない。政府債務の膨張は続いている。財政への信認が損なわれ、金融市場が混乱に陥ることのないよう、財政健全化の道筋を立てていくことが重要だ。

長期停滞論からは、日米欧が共通の課題に直面していることも浮かび上がってくる。

問われる改革への覚悟

少子高齢化という制約のなかで労働供給力をどう増やしていくか。めまぐるしい技術の変化やグローバル化が進むなかで、人々が新しい技能を身につけられるようにするには何をすべきか。こうした問題に答えを出すことができなければ、日米欧とも停滞のワナから抜け出すのは難しい。

画期的なイノベーションにつながる投資を促すことも含め、生産性を高める政策を打ち出すことの重要性が日米欧ともに高まっているといえるだろう。

米欧で関心が高まる格差問題は日本にとっても無縁ではない。雇用状況は改善してきたものの、低い技能しか持たない若年失業者や非正規労働者が所得の高い職を得るのは難しい。職業訓練の強化・効率化などにより格差の固定化を防いでいくことは、成長力を高めるうえでも欠かせない。

米欧の長期停滞論が示すのは、先進国が成長を続けていくことが容易ではなくなっているという厳しい現実だ。危機前のように過大な債務をテコに背伸びして成長を押し上げるようなやり方はできないし、すべきでもない。

悲観論に陥ることなく、潜在的な成長力を少しでも高めるような地道な改革を持続的に推し進める。その覚悟があるかどうかが日米欧には問われている。

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