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読書の歴史を問う 和田敦彦著

本が読者に届く過程に働く力学

2、3年前までは、通勤の電車内でマンガ雑誌を読んでいる人をよく見かけたものである。だが、近頃ではめっきり少なくなった。同じ沿線の人々がマンガを読まなくなったわけではない。スマートフォンでマンガを読む人は少なくない。「マンガ」の読者はさほど減ってはいないが、「マンガ雑誌」の読者は減少したということなのだろう。

(笠間書院・1900円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

このことは、書店という場に人々が足を運ぶ頻度の低下を暗示しているのかもしれない。たしかに、「内容=コンテンツ」は、ダウンロードして入手することもできるだろう。だが、それは書店を巡回する体験とは異なる。書店に入れば、マンガ以外の売り場も目に入る。文学でどんなものが話題になっているのか。総合雑誌で何が焦点になっているのか。手に取らずとも、書店は時代の雰囲気を肌で感じさせるものである。「書店」から「ダウンロード」への移行は、単なる流通経路の変容のようにも見えるが、実は人々の意識のあり方に、変化を生み出しているのかもしれない。

では、人々の本への接し方はこれまでどう変化したのか。本書は読書の近代史を見渡し、それを読み解く視座を提示している。

著者は、読書を「書物が読者にいたる経路、流れ」として捉えたうえで、これを2つのプロセスに分けて整理する。ひとつは、書物を読者が読み、理解する内的なプロセスである。そこでは、読者のリテラシーや階層、教養等々が重層的に絡み合う。だが、読書は何もそこで完結しているわけではない。書物を理解する前提として、書物が時間・空間を経て読者にたどりつかなければならない。著者はこのプロセスを重視している。

書物が読者に届くプロセスには流通機構が関わるわけだが、そればかりではない。検閲や出版社の自主規制は、どのような本が世に出されるかを左右する。米軍政下の沖縄で書籍流通が限られていたことには、戦後日本と沖縄の隔絶が透けて見える。本が読者に届くうえでは、様々な社会的な力学が絡んできたのである。

出版不況が言われて久しい。学術書のように「売れそうにない本」の流通は以前にもまして厳しい。図書館にも予算削減の余波が及び、配架も限られがちである。経済的・文化的な格差の拡大は、人々の間に読書や情報入手のギャップをも生み出している。「本が読者に届きにくい状況」をどう読み解けばよいのか。本書での「読書の歴史の問い方」に学ぶところは大きい。

(立命館大学教授 福間 良明)

[日本経済新聞朝刊2014年9月14日付]

読書の歴史を問う: 書物と読者の近代

著者:和田 敦彦
出版:笠間書院
価格:2,052円(税込み)

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