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春秋

江戸の狂歌師、大田蜀山人は月を愛した。なにかにつけて、眺めては詩を詠んだ。仲間70人を集めて、5日連続の宴を張ったこともある。のちに、百人一首「月みればちぢに物こそかなしけれ」(大江千里)のパロディー「月みればちぢに芋こそ喰いたけれ」も作った。

▼本業は幕府の実直な役人だった。大阪の銅座や長崎奉行所にも転勤した。長崎には、英彦山から上る月を詠んだ歌碑も残る。外国船が近海に現れ始めたころで、ロシアの特使レザノフと会見している。オランダ船でコーヒーを飲み、日本初の体験記を残した。ただ、感想は「焦げ臭くして味ふるに堪ず」と素っ気なかった。

▼ここまでの浸透は夢想もしなかっただろう。いまや日本は世界4位の消費国。年40万トン以上を輸入、週に平均10杯以上飲む。明治以降、誕生した街の喫茶店が長く普及の核だった。音楽喫茶などの多様な文化も生んだ。最近はコンビニなどに押され気味だが、学生や勤め人の情報交換、人々の社交の場を提供し続けている。

▼モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリを受けた映画「ふしぎな岬の物語」は喫茶店が舞台。吉永小百合さん演じる店主が入れる1杯を求め人が集う。交流がやがて驚きのドラマを生む。蜀山人も観月の集いの効力をよく知っていた。今夜は十五夜。カップを手に「中秋の名月」の風雅を味わってみてはいかが。

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