2019年6月25日(火)

潜在力を生かしてこそ「地方創生」だ

2014/9/5付
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「地方創生」を重点政策に掲げる第2次安倍改造内閣が始動した。人口が減って衰退が続く地方に光を当てることは望ましいが、地方を活性化する特効薬などない。一時的な効果しかない予算のばらまきは慎み、中長期的に腰を据えて取り組むことが重要だ。

今、企業の一部で東京に集中する機能を見直す動きが広がっている。アクサ生命保険は11月、札幌市に札幌本社を設立し、東京との2本社制に移行する。地震などの災害に備えて総務や経理などの機能の一部を移す。

本社機能の移転広がる

YKKと建材子会社のYKKAPは2015年春をめどに、工場のある富山県黒部市に本社機能の一部を移す計画を進めている。北陸新幹線の金沢までの開業をにらんだ動きで、生産部門と他部門の連携を強める。

主要国をみると日本は韓国などと並んで首都への機能集中が著しい。全国で最も出生率が低い東京に若者が集まればその分、日本の人口減少は加速する。この点を考えれば企業が独自の経営判断で拠点を分散することは望ましい。

一極集中の是正を目指す安倍内閣はこうした企業の動きを後押しするのだろうが、やり方には注意が必要だ。かつてのように公共事業を柱とする政策ではだめだ。

政府は高度成長期以降、「国土の均衡ある発展」を掲げて企業の工場や研究所、業務部門の地方移転に取り組んできた。しかし、十分な成果は上がらず、全国各地で工業団地などが売れ残った。

運営のために設けた自治体の第三セクターは経営が悪化し、その後、長らく地方財政の重荷になった。こうした過去の苦い経験を生かすべきだ。

地方の活性化は地域の中小企業群の潜在力を引き出せるかどうかにかかっている。産官学と金融機関が連携して地方版の成長戦略を策定し、技術開発を強く後押しする必要がある。

名古屋や京都、浜松、福井県鯖江など地元の経済をけん引する企業が存在する地域は雇用の裾野が広い。海外をみてもわかる通り、グローバル企業になる条件に本社の立地場所は関係ない。

地方経済の新陳代謝を促すために起業しやすい環境を整え、ベンチャー企業を重点的に育成することも大切だ。地方の雇用を支えているサービス産業の再編を促し、生産性を高める必要もある。

本来、地方の強みになるはずの農業の6次産業化も進めたい。そのためには地方産品の販路拡大をさらに支援すべきだ。

観光も伸びしろが大きい分野だろう。昨年、初めて訪日客が1000万人を超えたが、外国人の宿泊地の3分の2は東京から箱根、富士山、関西を結ぶ「ゴールデンルート」に集中している。

もっと多様な地域を訪れてもらうためには海外でのPRに力を入れると同時に、地方空港での入国審査の人員を増やすなど様々な取り組みが要る。

高齢化が進む地方への人材回帰の動きももっと加速したい。総務省が09年度から「地域おこし協力隊」と名付けて実施している人材の派遣事業をみると、最長3年という任期を終えた人の6割はそのまま定住している。

都市機能の再編不可欠

機会があれば地方での暮らしを望む都市住民は少なくない。各地で急増している空き家を活用するなどもっと知恵を絞るべきだ。

地方の活性化は必要だが、それでも人口の減少は続く。政府は50年後にも1億人程度の人口を維持する目標を掲げている。全国で1億人ならそれぞれの地域でどうなるのかを想定し、政府と自治体が協力して都市機能の再編に持続的に取り組むべきだろう。

商業や医療・福祉など様々な機能をいくつかの区域に集約できれば、バスなどの公共交通網も維持しやすくなる。そこに住宅なども誘導できれば人口は減っても地域の崩壊を防げる。

地方ではインフラの老朽化も著しい。しっかりと維持管理するためには公共事業の重点を「造る」から「守る」に移し、複数の施設の保守業務を一括して発注するなど、建設業者が受注しやすい環境を整えてほしい。

政府は「まち・ひと・しごと創生本部」を新設し、石破茂前自民党幹事長が地方創生相に就任した。本部の最大の仕事は中央省庁の縦割りを排して、自治体や民間の創意工夫を生かすことだ。

予算をむやみにばらまくだけでは選挙対策にしかならない。地域の潜在力を引き出してこそ、地方は再生する。

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