フードトラップ マイケル・モス著
消費者魅了する加工食品の「罠」
加工食品には鍵となる三つの成分がある。塩、脂肪、砂糖だ。単に味覚を刺激するだけではなく、食品に風味を加えたり、より魅力的な口あたりを生むためにも用いられている。

この三つは組み合わせて使うことで消費者の食欲を強烈に刺激することができる。食品会社は、より多くの商品を買ってもらうために各成分が最大の効果をもたらす「至福ポイント」を見(み)出(いだ)している。店頭に並ぶ加工食品は計算し尽くされた製品だ。
また人々は食事の準備時間を短縮しようと、より多くの加工食品に頼るようになっている。さらなる利便性を求めて、依存度はどんどん増している。
本書は米国における加工食品開発の内情と消費者を取り巻く模様を描いたルポである。
内容は「至福の罠(わな)」という邦訳の副題からも、おおむね想像がつくと思う。加工食品には様々なかたちで塩、脂肪、砂糖が使われており、多くの研究成果が投じられた加工食品に、我々の脳は抵抗しがたい魅力を感じる。だが魅力的すぎる食品に頼りすぎることは危険であり、消費者はどこかで踏みとどまる必要がある。「低脂肪」や「低糖」という言葉にも裏がある。食品会社のマーケティング、心理的戦略は洗練されすぎており、食習慣を彼らの言いなりに変化させることには抵抗したほうが良さそうだ。
ただし著者は単純に食品会社が悪いと言っているわけではない。食品会社は悪意を持って製品を開発しているわけではない。市場で商品を売るために、消費者が好むもの、欲するものを探究しつづけているだけだ。たとえその結果が、従来の食品の限度をはるかに超えたものであってもだ。パッケージも素敵(すてき)に見える。消費者は彼らの送り出す製品の魅力に抗することができない。それが「至福の罠」である。食品メーカーが消費者のニーズをより深く理解しようとした結果、食を取り巻くこの現状が生み出されている。
罠に落ちているのは食品メーカーも同じだ。消費者は便利で安く、うまい食品を欲する。そしてメーカーは消費者ニーズに応えるべく開発を続ける。価格が安く売れる商品には塩、脂肪、砂糖が不可欠だ。そうしないと利益が上がらず会社がもたない、そう考えているからだ。だから大量使用に業界全体が依存してしまう。
誰もが何かを食べる。何をどう食べるかは自分で考えて決めていると思っている。だが本当にそうなのか。考えてみる必要があるのかもしれない。
(サイエンスライター 森山 和道)
[日本経済新聞朝刊2014年8月24日付]関連キーワード