なお死角多い土砂災害対策
広島市で大規模な土砂災害が起き、多くの死者・不明者が出ている。20日未明の猛烈な雨で市内各地で土砂崩れが多発した。自衛隊や消防などが不明者を捜している。2次災害に注意し、人命救助に全力を挙げてほしい。
同市北部では20日未明に3時間で200ミリ超と、8月の月間雨量を上回る雨が降った。台風や梅雨末期ではなく、盛夏の土砂災害に不意を突かれた住民も多かったことだろう。対策にはなお死角が多いことを浮き彫りにした。
ひとつが、数カ月分の雨が短時間に降る集中豪雨にどう備えるかだ。地球温暖化が犯人とは言い切れないが、集中豪雨や土砂災害は列島のどこでも油断できない。
広島市が避難勧告を出したのは土砂崩れの発生後だった。被災地は花こう岩が風化したもろい地質からなり、15年前にも大規模災害を経験している。8月に入って雨が続き、地盤もゆるんでいた。
真夜中に突然、避難勧告を出すのは住民の安全確保に課題があり、自治体がためらうのは無理もない。だが雨の予報が出た段階で、注意を呼び掛ける「避難準備情報」は出せなかったのか。
土砂災害の危険が高い地域では日ごろから住民に注意を喚起することも欠かせない。
国土交通省によると、全国で土砂災害の危険地域は52万カ所にのぼる。土砂災害防止法は都道府県が「警戒区域」や「特別警戒区域」を定め、市町村に避難計画づくりを求めている。特別区域には宅地開発の制限もある。だが危険地域のうち3分の1は未指定だ。
自治体の担当職員の不足に加え、警戒区域に指定されると不動産価格が下がるとして、地元住民が反対するケースもあるという。自治体は住民に粘り強く説明し、区域指定を急ぐべきだ。国が専門家を派遣して防災計画づくりを後押しすることも考えたらどうか。
土砂災害から命を守るには、先手を打って避難するのが鉄則だ。迅速な避難行動を促すため、事前の情報周知がカギを握る。
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