なぜ日本の公教育費は少ないのか 中澤渉著 国民意識を分析、福祉とも比較

2014/8/20付
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 日本は、公教育にあまりお金をかけていない。公教育支出の国内総生産(GDP)に対する比率、教育支出における公費の比率のいずれを見ても、日本は先進国で最も低い部類に属する。なぜそうなっているか、その原因と問題点を正面から取り上げたのが本書である。

 著者の分析によると、その最大の原因は、公教育の社会的便益に対する意識が低く、教育費の高さに悩んではいても、教育費の負担は親の役目だという意識が強いことに求められる。さらに、入試システムが学力を測定する仕組みとしてかなり公平な仕組みに出来上がっているため、親の所得階層によって生じる実質的な不公平にも目が向かいにくい。だから、公的な学校教育によってその格差を埋めるという発想も出てこない。

 本書はこうした公教育をめぐる問題を、高齢者向けの福祉政策との比較、政府の政策に対する意識などに関する緻密な実証分析に基づいて明らかにしていく。高齢者福祉に対して政府の役割を強く求めるのに、教育や育児についてはそうでもない。民主党が掲げた子ども手当や高校無償化に対しても、高学歴層や高収入層の支持が弱く、ばら撒(ま)きと批判する声が出てくる。具体的な統計に基づく冷静な分析が展開され、説得力も高い。

 著者は、こうした実証分析を踏まえ、「まずは社会的な教育の意義を説き、公教育費の増加という要求や声を高めていくことが重要」と主張する。評者も、日本の潜在成長力を高めるためには、公教育を充実させ人的資本の形成を強化すべきだと思う。いくら経費節減のためだといっても、小中学校や高校でも非常勤の教員に大きく依存しているような現状は明らかに異常だ。

 本書では投票行動の分析にも力を入れている。政策は投票によってしか変わらないから、政策を変えるためには投票に行く人々の意識を変えるしかない、という発想からである。そして、本書は公教育の意義について改めて考えるための材料を人々に提供している。先行研究の整理も手際よく、論旨も明快、内容が高度な割には読みやすい。

 ただし、教育の社会的な意義を主張するためにも、公教育が充実すればどのような効果が期待できるのか、もう少し具体的な検討がほしかった。さらに、日本は教育にあまりお金をかけていないのに、国際的な学力調査では最上位グループに属する。日本の教育は意外と効率的だという見方もできるが、著者なら反論するだろうか。教育論議にも刺激を与える貴重な一冊だ。

(一橋大学教授 小塩 隆士)

[日本経済新聞朝刊2014年8月17日付]

なぜ日本の公教育費は少ないのか: 教育の公的役割を問いなおす

著者:中澤 渉
出版:勁草書房
価格:4,104円(税込み)

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