2019年5月21日(火)

視覚文化「超」講義 石岡良治著 サブカルチャー創出の現場体感

2014/8/13付
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サブカルチャー、俗に「サブカル」と呼ばれている領域の広さ、とめどなさは教育現場でその周辺を教えなくてはならない人間にとっては変わらぬ悩みの種である。マンガ、アニメを自分の好む範囲でやっていればそれですむのか。サブカルに少し先行した感じの一九六〇年代のカウンターカルチャーとはどういう関係にあるのか。両者ともつきつめていくと「ヴィジュアル・カルチャー」という、ひょっとして新領域たりうる巨大分野の中の、新しい何かであるのか。最近「文化史」「精神史」という名で知られ始めている新領域の中の何かであるのか。この種の新領域創出の現場に自らの好奇心を投げ込み、たしかに何かが旧来の何かを超えていく現場を、著者とともにいわば体感させてくれる。タイトルに「超」をうたっているが、何が「超」えられたのか、読者が立場と教養に応じて読後に考えてみるとよい。結構、いろいろなものが「超」えられているはずだ。

(フィルムアート社・2100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(フィルムアート社・2100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

厖大(ぼうだい)な脚注自体、本文に入れても良い濃いものが多いし、そこに丁寧に掲げられた参考文献をチェックしてみると、デリダ、ボードリヤールといった一九八〇、九〇年代の「現代思想」流行のコアになったものは当然として、ヴィジュアル・カルチャー研究など現時点において落ちているものがほとんどないことに驚かされる。勉強し尽くし、満を持しての「講義」と知れる。講義の語りおろし。

この五年ほど、たとえば月刊誌「ユリイカ」のサブカル急傾斜は随分話題だったが、それぞれちがった小さなテーマにこだわりや、うんちくをぶっつけることのできる書き手は少なくない。それが映画、ロック音楽からアニメ、ゲームまで全部総覧しながら、スペースインベーダー直後世代のゲーム少年だった自分の趣味も楽しそうに忍びこませるとなると、これは類書一杯ありそうで実は画期書。というか、今までの動向のバランス良いまとめであり、さらにその先に開かれた突破書である。どうやらモデルは一九七〇年代初めに「視覚文化」論の啓蒙に糸口をつけたジョン・バージャーの『ものの見方』(邦題『イメージ』)らしいが、たしかにこのモデルさえ「超」えた出来ばえで感心した。

一番良いのは万事に賛否両方の論を用意して丁寧に論じていく、多分著者の身についたバランス感覚で、知らない人間を置き去りに自分の好みばかりに熱中して語る「サブカル」論者に通有の一人よがりとは無縁。さわやかだ。

(大妻女子大学教授 高山 宏)

[日本経済新聞朝刊2014年8月10日付]

視覚文化「超」講義

著者:石岡良治
出版:フィルムアート社
価格:2,268円(税込み)

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