2019年3月26日(火)

良い資本主義 悪い資本主義 ウイリアム・J・ボーモルほか著 起業家の視点から解く経済成長

2014/8/13付
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政府の市場介入の度合いで資本主義を分類したフランスのミシェル・アルベールに対し、著者は企業の形態に注目して4つに分類している。政府が特定の産業を支援する国家資本主義、少数の新興財閥に富が集中する資本主義、重要な経済活動が大企業に集中する資本主義、小さな革新的企業が重要な役割を担う起業家資本主義である。

(田中健彦訳、書籍工房早山・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(田中健彦訳、書籍工房早山・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

経済成長の主因は、既存の労働や資本の増加率だけでなく、それらをいかに効率的に組み合わせるかの「市場の力」である。これは消費者の潜在的なニーズを先取りし、新たなビジネスを生み出す起業家の力量に大きく依存する。ベンチャーが生み出した製品やサービスを改善し、大量生産するためには、大企業の役割も重要である。持続的な経済成長には両者の適切な組み合わせが必要と著者は言う。

成熟した経済は、次々と新たなビジネスが生まれることで活性化する。そのためには、起業家精神と、それを刺激し、発展させる市場が不可欠だが、日本や欧州には、以下の要素が十分でないとする。

第1に、開業しやすく、事業を伸ばし易(やす)い社会インフラである。事業や資産の登記手続きの容易さ、労働者の雇用や解雇などのルールの明確さ、資金を起業家に流せる金融市場の効率性などである。第2に、簡素な税制であり、法人税や所得税より消費税や資産税へのシフトが起業家の育成には望ましい。第3に、リスクを負う起業家への十分な報酬と、破産しても、やり直し可能な倒産制度である。

著者から見れば、日本の労働市場では大企業が優れた人材を抱え込みすぎている。米国なら企業から十分に評価されなければ独立してベンチャーを立ち上げる層が厚い。日本では、長期雇用保障と年功昇進の檻(おり)にそうした人々が閉じ込められ、起業の機会を失っている。銀行中心の金融市場も、リスクキャピタルを十分に供給できない要因だ。政府は中小企業を保護の対象としか見ておらず、新規参入を規制で抑制し、特定の事業者や労働者が利益を得ることが「公平」とみなされがちである。

本書は、世界各国の経済成長率を資本や労働など、主要な経済指標で説明する章から始まる。その上で、こうしたマクロ分析だけでは、各国の成長格差を十分に説明できないという反省から出発し、「起業家」の視点から経済成長力を説明する。いわばミクロの企業経営と組み合わせた、新しい視点からのマクロ経済学の教科書ともいえる。

(国際基督教大学客員教授 八代 尚宏)

[日本経済新聞朝刊2014年8月10日付]

良い資本主義 悪い資本主義: 成長と繁栄の経済学

著者:ウイリアム J.ボーモル, ロバート E. ライタン, カール J. シュラム
出版:書籍工房早山
価格:2,376円(税込み)

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