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人口減だけではない 日本の空き家が増え続ける理由

イチ子お姉さん日本で空き家の数がどんどん増えているわ。すべての住宅に占める空き家の割合も過去最高の13.5%に上昇(じょうしょう)したの。
からすけ うちの近所にも誰(だれ)も住んでいない家があるよ。でも、そんなに増えているとは思いもよらなかったよ。どうしてなのかな?

住宅数、世帯上回り伸びる

イチ子 総務省(そうむしょう)の調べでは、2013年10月時点の全国の空き家の数は820万戸になったそうよ。5年前に比べて63万戸増えて、過去最高になったわ。今や7~8軒(けん)のうち1軒が空き家なのよ。

からすけ そういわれるとかなり多いんだね。どうしてそんなに増えてしまったんだろう。日本の人口が減り始めたからかな?

イチ子 たしかに地方では人口が減っているし、若者が進学や就職などで都会に出て行って、親から引き継(つ)がずに使われないままの家が増えているの。山梨県では5~6軒に1軒が空き家だけど、東京などへの人口流出が影響(えいきょう)していると見られているわ。でも空き家の問題は、人口よりも世帯(キーワード)で考えるとわかりやすいのよ。

からすけ 世帯?

イチ子 そう。住宅と世帯の数を比べてみると、戦後20年ぐらいは住宅の数よりも世帯数のほうが少し多かったの。空き家率も数パーセントにすぎなかったわ。それが1968年から住宅の数が世帯数を上回るようになった。その後も住宅の数が世帯数を上回って伸び、空き家の割合もどんどん増えてきたの。

からすけ 世帯数ってずっと増えてきたんだ。

イチ子 核家族化に加えて、一人暮らしの若者や高齢者(こうれいしゃ)が増えたことが大きいの。でも実は、世帯数も2019年をピークに減少に転じる見込みなの。

からすけ えっ。それなら空き家はこれからどのぐらい増えるの?

イチ子 富士通(ふじつう)総研(そうけん)の米山(よねやま)秀隆(ひでたか)さんは、現在の住宅着工や空き家撤去(てっきょ)のペースが続けば、15年後には住宅全体の4分の1が空き家になると試算しているの。

<キーワード>
 世帯 同じ住居で生活し、生計をたてる人の集まり。所帯ともいう。家族以外を含むこともある。
 固定資産税 土地などに課される税金。住宅が建っていると、何も建物がない場合に比べて6分の1になる。

税金の問題で壊しにくく

からすけ 日本中が空き家だらけになるのは困るな。使わない家は壊(こわ)してしまえばいいのに。

イチ子 そう簡単にはいかないのよ。家を解体するにはお金がかかるでしょ。それに固定(こてい)資産税(しさんぜい)(キーワード)という税金があって、空き家を残しておいた方が税金を考えると有利なの。住宅が不足していた時代に建設を促(うなが)す狙(ねら)いだったけど、今もその制度が残っているの。お金がかかるので仕方なくそのままにしておく所有者も多いそうよ。

からすけ なんとか空き家を減らす方法はないのかな。

イチ子 空き家を壊さずに活用する取り組みの一つが「空き家バンク」。空き家を登録してインターネットなどで公開し、移住したい人や使いたい人を探すの。

からすけ ふ~ん。もう住めないような家はどうするの?

イチ子 最近は強制的に空き家を撤去できるようにしたり、撤去に補助金を出したりできるようにする「空き家条例」をつくる自治体が増えているわ。でも、よほど危険な状態だったり古かったりする空き家しか対象にならないわ。

からすけ どっちも抜本的な解決策にはならなそうだな。

イチ子 新築住宅の建設を抑(おさ)えないと解決しないといわれているけど、それも簡単にはいかないの。住宅をつくるには建築の仕事が生まれるわね。新しい家具や電気製品を買うから消費を刺激(しげき)する効果もある。つまり景気対策の名目からもどんどん造られてきたの。

からすけ 僕(ぼく)も住むなら新しい家がいいな。

イチ子 日本人は新築が大好きね。日本では中古住宅には買い手や借り手が付きにくいけど、アメリカやイギリスでは新築より中古の方が取引が多いの。取り壊された住宅が平均で何年使われたか調べたところ、アメリカで67年、イギリスは81年。でも日本はたった27年なの。住宅も使い捨てといっていいわ。

からすけ もったいない話だね。

イチ子 新築なら必ず受けられる住宅ローンの減税が中古では条件付きだったりするそうよ。新築ばかりを重視する仕組みがたくさん残っているの。日本の人口や世帯数が減少していくことを前提に発想を変えないと、本当に空き家だらけになってしまうわ。

大名屋敷、維新後に再利用

千代田区立九段中等教育学校の荒川美奈子先生の話
 江戸時代、江戸の面積のおよそ70%を占(し)めていたのは幕府(ばくふ)から大名たちが拝領した大名(だいみょう)屋敷(やしき)でした。明治(めいじ)維新(いしん)後は明治政府に接収され、屋敷はすべて空き家になりました。大名屋敷はその後どうなったのでしょう。東京駅と皇居の間の熊本(くまもと)藩細川(ほそかわ)家や土佐(とさ)藩山内(やまうち)家などの屋敷のあった地域は、維新後は更地(さらち)となり陸軍の施設(しせつ)が置かれました。後には赤レンガの壮麗(そうれい)なビル群が建設され、丸の内のオフィス街となっていきます。
 大名屋敷は大使館としても再利用されています。例えば赤穂(あこう)浪士(ろうし)10人の切腹の地、伊予(いよ)松山(まつやま)藩松平(まつだいら)家の屋敷にはイタリア大使館が建てられました。大きな窓からは、松の緑と大きな池で構成された大名庭園を広々と見渡すことができます。夏休みにかつて大名屋敷だった場所を巡(めぐ)ってみるのも楽しいかもしれません。
今週のニュースなテストの答え 問1=39、問2=株主優待

[日経プラスワン2014年8月9日付]

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